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なぜ参院選でも本気の「物価高対策」が出てこない?与野党が一時しのぎの給付金と減税でお茶を濁す理由=斎藤満

3日に参議院選挙が公示され、各党一斉に選挙戦に入りました。今回の選挙では与野党共通のテーマとして「物価高対策」が上がっています。党による違いは、それを達成するための手段の違いだけです。そして共通していることは、いずれも物価高を前提とした対症療法の議論で、物価高を抑制しようという政党はありません。

参議院は「良識の府」と言われ、解散がなく、当選すれば6年間職についてじっくり議論できる環境にあるため、衆議院よりも長期的な視点に立った政策論争が可能になるはずです。しかし、各党の公約には長期的な視点からの日本経済を描くものが見られず、トランプの米国や中ロとの外交戦略も見られず、単に給付金か減税か、賃上げかという短期的な戦術が中心で本質的議論が欠如しています。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)

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※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2025年7月7日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

物価を抑える気はあるのか

今回の選挙戦では与野党に共通して物価高対策が上がっています。

しかし、いずれもその痛みを和らげる対策に終始しています。自公政権は給付金を痛み止めとして使い、野党は消費税の引き下げ、廃止を物価対策としています。しかし、これらはいずれも短期救済策に過ぎず、効果は一過性のものです。

そして「財源」についてもインフレ増税による「上振れ」分を充当するというところが多く、これらは「インフレの果実」を国民に還元するということで、インフレを容認し、これを利用した対策となっています。そして自公政権は「物価に負けない賃上げ」を目指すとしています。

特に石破自民党は「かつてのコストカット型経済に戻したくない」として、物価が上がってもそれを上回る賃上げでカバーできるとしています。これは危険な考えで、これまでも実現していませんが、今後も「賃金物価の悪循環」によって、果てしない物価上昇をもたらすリスクがあります。これは世界で証明されていますが、それを知らないか、知っていてもあえてインフレを目指すための方便に使っているか、どちらかです。

これを進める限りインフレは収まらず、実質賃金の減少が果てしなく続きます。

与野党ともに物価高対策と言いながら、インフレを抑える対策は打たず、むしろインフレを利用してその痛み止めを与えることを「物価高対策」と言っているにすぎません。財政抑制や金融引き締めでインフレを抑えることは、選挙民に嫌われるとして、本質に迫ることなく、まやかしの対策に終始しています。

消費税の本質的問題は「大企業の利益」

消費税についても、本質的な問題に触れず、むしろ痛み止めに利用しようとの政党が少なくありません。

財界をバックにする自民党は、企業の隠れ利益となる消費税には手を付けようとしません。トランプが日本の消費税は企業への補助金だとして、不公平税制と捉えてその廃止を求めましたが、こちらの方が本質をついています。

つまり、消費税の構造は、表向き最終消費者が税負担すると見せかけて、実際は企業が代わりに納税します。その際、大企業ほど仕入れなどで支払った税コストを還元してもらうことで、むしろ利益を上げる余地があります。

トランプは自動車の輸出企業は国内生産時に払った支払い消費税の還付という「補助金」を得ている一方で、競合する米国企業からは消費税をとって不公平と言います。

実際、トヨタ1社で6,000億円、自動車業界全体では2兆円余りの還付金を得ています。

消費税の不公平はそれだけではありません。スーパーなどの企業は消費者が払った消費税額をそのまま納税するのではなく、仕入れで支払った税金分を差し引いて支払えます。「仕入れ税額控除」という制度を利用したものですが、これには「給与等を対価とする役務の提供を除く」と定義されているので、自社の正社員に支払った給与は仕入れ控除の対象にはなりません。

そこで人件費比率の高い企業は自ら「派遣会社」を設立し、そこから労働力を仕入れることで、丸まる仕入れ税額控除を生かすことができます。しかも資本金1千万円未満の会社は、設立から2年間消費税の支払いが免除されます。ならば2年後に派遣会社を清算して、新たに別の派遣会社を設立すれば、永久に消費税を払わなくてすみます。

Next: どんな政治家を選ぶべき?語られない長期展望…

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