なぜテック企業の参入が起こらない?
なぜ、テック企業の参入が起こらないのか。
それは文化産業だからです。文化産業は白菜や洗剤と違って、商品の品質と価格という単純な関係では優劣が決まりません。白菜であれば、新鮮さ、ビタミン含有量、価格など品質を数値化できますが、トトロのフィギュアと鬼滅の刃のフィギュアのどちらが上かということは決められません。どの商品が売れるかを判断するには、玩具業界での長い経験と、マーケティング調査では得られない市場や流行の読みが必要になります。
さらに、価格による販売数の制御も難しい商品です。白菜が売れなくても、半額にすれば売れます。しかし、売れないフィギュアは、半額にしても売れません。タダにしても持っていってくれない場合もあります。
テック企業の社員、特にエンジニアたちは収蔵玩具のファンであることが多く、このようなことを理解していて、素人がアルゴリズムで参入してどうにかなる業界ではないということがわかっているのだと思います。今後、大手テック企業が収蔵玩具企業を買収するということはあるにしても、この市場は健全な競争が続きそうです。
「エグい商売」との見方も
このようなブラインドボックスに対して、大人の中にはいい顔しない人もいます。希少価値で煽って、大量買いをさせるエグい商売だと見ている人もいます。しかし、購入をしている若者たちでそういう批判的な見方をしている人は多くはありません。
フリマサイトで40倍の値段がついたということを、大人たちは「たかがおもちゃに。不健全だ」と言いますが、最高で1/720の確率でしか買えないフィギュアが40倍程度の価格で買えるのですから、良心的とも言えます。
コンプリートすることにこだわって大金を投じる人もいますが、それはごくわずかで、大半の人はシリーズ全部がそろわず、買い物のたびに1つ、2つの少量を買って、何が出てくるか楽しんでいます。そもそも、シリーズものというのはそろえるまでの間が楽しいので、そろってしまったら意外に冷めてしまうものです。
業界をリードする「ポップマート」と「52TOYS」
この業界をリードしているポップマート、52TOYSのいずれも、IPOや金儲けを目指して起業したわけではありません。どちらの創業者も、玩具が好きで、玩具の店舗を維持するためにさまざまな工夫をした中で、偶然と言ってもいいのかもしれません、大きなブームの波に乗ることができました。
ポップマートは、2010年11月、北京市の中関村の店舗から始まりました。創業者の王寧(ワン・ニン)は大学を出たばかりの23歳でした。この時は玩具専門ではなく、家具やデジタル商品、雑貨、スナック菓子などポップな商品をそろえたセレクトショップでした。若者の間では話題になりましたが、ビジネスとしては危ぶまれていました。王寧はさまざまなショッピングモールで出店交渉をしましたが、あちこちで断られたと言います。ショッピングモールは、各店舗の売上の一定割合を管理費として徴収するビジネスモデルなので、売上が立たない店舗は入れたくないのです。
かといって独立した路面店で勝負するほどの売上があるとも思えません。約半年の間、あちこちのショッピングモールと交渉して、ようやく開店できたと言います。