アリババ、テンセントといった中国の主要テック企業が大規模なリストラを始めています。中国はコロナが終息したように見えて再拡大するということを繰り返していて、先行き不安から消費が伸びず、景気が悪化をしています。日本も同じような道をたどることが予想されます。(『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』牧野武文)
※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2022年4月11日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。
主要テック企業が行っているリストラの内容
今回は、中国テック企業のリストラについてご紹介します。
アリババ、テンセントといった主要テック企業が大規模なリストラを始めています。中国はコロナ禍が終息したように見えて、再拡大するということを繰り返していて、先行き不安から消費が伸びず、景気が悪化をしています。
しかも、2010年代後半から、社会全体で高度成長から安定成長へのシフトチェンジを行なっていたところでした。ブレーキをかけたところの路面に油が撒かれていたような話で、補習塾禁止、オンライン補習サービス禁止などという双減のような極端な政策にもつながっています。
では、このような状況の中で、主要テック企業はどのようなリストラを行なっているのでしょうか。アリババ、テンセント、京東のリストラの現状をご紹介します。
また、テック企業にのしかかる大きな問題が、米国証券取引所からの上場廃止、香港証券取引所への上場という振替問題です。
上場廃止は、ネットフリックスの会員をやめるように簡単にはいかず、大きな課題としてテック企業にのしかかっています。この香港上場問題についてもご紹介をします。
今回は、冬の時代を迎えたテック企業の対応と、香港上場問題についてご紹介します。
冬の時代に入った中国テック企業
すでに報道などでご存知だと思いますが、中国大手テック企業が軒並み大規模リストラを始めています。
EC大手の京東(ジンドン)の創業者、劉強東(リュウ・チャンドン)は、かつて京東の経営が苦しくなり、給料の遅配まで起こり始めた時に、「京東兄弟(社員)の1人たりともリストラしない」と宣言をしたことがあります。その京東までが「卒業」という言葉を使ってリストラを始めています。弾幕付き動画共有サービスの「ビリビリ」も卒業という言葉でリストラを始めており、「卒業」がネットの流行語になり始めているほどです。もちろん、アリババ、テンセントも例外ではありません。
このリストラの最大の要因は景気悪化です。このメルマガではすでに何度もご紹介していますが、社会消費品小売総額の統計が悪化をしています。日本の個人消費に近い、景気を見るための指標で、2021年の夏から急速に悪化をし、2021年12月には1.7%というところまで落ち込みました。
中国は安定成長時代の成長率目標を5.5%に設定しているため、社会消費品小売総額の成長率も5.5%はないと困るわけです。なお、2022年の1月・2月(春節が挟まるため、2ヶ月まとめて発表される)の速報値は、6.7%と及第点ラインに達しましたが、先行きはまだまだ不透明です。
ブラック企業が減って景気悪化?
なぜ、ここまで景気が悪化しているのか、理由は定かではありません。一般的には、コロナ禍が終わり切らないために、先行き不安を感じている人が多く、消費を抑えているからだとも言われます。
テック企業や大手企業が昨年から悪名高かった996制度を廃止し、週休2日制に移行したことも大きいのではないかと言う人もいます。996というのは、朝9時から夜9時まで週6日間勤務という意味で、長時間労働を象徴する言葉です。
2019年に、あるエンジニアが「996で働いていたら病院のICUに入院することになる」という意味で、プログラミングコードの共有プラットフォーム「GitHub」に「996.ICU」というリポジトリを立てました。ここから多くのエンジニアたちが「うちも996だ」という通報が相次ぎ、ネットで注目される言葉となりました。
これは確実に中国の労働法違反です。労働法では残業は1日に3時間、月で36時間を超えてはならないと定められています。
この996制度が話題になったことは、労働環境の改善につながりました。なぜなら、中国の労働法では、残業に関する賃金の規定もあり、残業は1.5倍、休日残業は2.0倍、法定祭日の残業は3.0倍の賃金を支給しなければならないことになっているからです。
しかし、「ハイテク企業従業員労働時間調査研究」(北京義聯労働法援助研究センター)の調査結果によると、残業代の1.5倍の賃金はほぼきちんと支払われていたものの、休日残業の2.0倍はわずか11%の企業でしか支払われず、法定祭日残業の3.0倍は31%の企業でしか支払われていませんでした。多くの企業が通常の残業代か、平日に振替休日を取らせることで対応していたのです。
社員の方も、通常の残業代さえきちんと支払ってもらえれば、休日、祭日残業の上乗せ分はそこまで厳密には要求していなかったようです。
しかし、996問題が注目されると、きちんと会社に対して要求する人が増えていきました。こうなると、企業としては残業をさせるのはコストが高くつくことになります。1人に残業させるより、2人雇って定時で帰ってもらった方がよくなるわけです。