各テック企業が同時に先手のリストラを始めた理由
リストラ=人員削減と言うと、日本では業績が悪化してやむなくというイメージが強いですが、中国のテック企業の場合は、業績の成長が期待できない見込みが明らかになってきたために、それに対応するための先手のリストラになっています。
では、なぜ、各テック企業が同調するかのようにこの時期に先手のリストラを始めているのでしょうか。
最も大きな理由は、中国が高度成長の時代から安定成長へのシフトチェンジが必要となり、中国政府が矢継ぎ早にシフトチェンジ政策を打ち出してきたことです。独禁法違反の摘発、社区団購の規制強化、ネット互助(ネット保険)の規制強化など、すべて高度成長から安定成長へのシフトを見据えたものです。
高度成長時代であれば、多数の企業が参入し、消費者の選択肢が多いために、劣悪なサービスは選ばれなくなり自然淘汰されていきます。しかし、安定成長では参入企業数は絞られ、しかも資本力のある大手数社が結局は市場を支配することになります。現実に、社区団購、ネット互助の2つの市場は、それまで地道に市場を育ててきた独立系企業があり、ようやく利益が生まれる目処が立ち始めたところで、大手テック企業が巨大な資本力を使って参入してきました。独立系企業は立ち行かなくなり、破綻をしてしまうところも出てきています。
信じない日本人は多いが、中国政府の狙いは「消費者保護」
中国政府が規制をする狙いは、多くの日本人は信じないかもしれませんが、消費者保護です。数社に支配された市場は、消費者に選択の余地がなくなり、消費者が弱い立場に立たされます。数社が支配する寡占市場では、極端なことを言えば、嫌であっても、アリババ系かテンセント系のいずれかを選ぶしかないのです。弱い立場の消費者に対して、企業の都合が優先されたとしても、消費者は我慢をするしかありません。
実際に、「殺熟」(シャーシュー)と呼ばれる、長期契約者から得た利益で、新規契約者を獲得するためのキャンペーンを行い、長期契約者が不利になるという現象があちこちのサービスで起こり、これも大手テック企業に罰金が課せられています。
日本でも以前、携帯電話のMNP(乗り換え)の割引率を高くし、長期契約者の料金が高止まりしていることが問題となりました。
中国のような国が、消費者保護などという人権的な発想をすることが信じられないという方もいるかと思いますが、ある人が中国の消費者保護は市場原理から行なっているという説明をしてくれて感心をしたことがあります。
殺熟をするような市場では、うまく立ち回って得をしようと考える一部の人たち(だいたい若者です)の動きが活発化をし、業績としては景気のいい数字が並びますが、多くの不満を隠し持った消費者が生まれることになります。そこに、新しいサービスが登場すると、一気に流れてしまい、市場が崩壊するという現象が起こります。そんな全員が大損する事態になるより、消費者を保護して市場を長持ちさせた方が、結局は全員が得ができるという、人権的な発想ではなく、損得勘定の視点からの説明をしてくれました。実に中国っぽい考え方です。
テック企業の香港上場の先行きを予想
この安定成長へのシフトチェンジで、触れておかなければならないのが香港上場問題です。これは今後、テック企業に大きな課題となってのしかかります。
中国政府は、1978年から始まった改革開放政策の中で、外資の参入規制をしています。自動車メーカーは制限類に指定をされているため、日本のトヨタが中国に100%子会社を設立することはできません。そこで、広州汽車と合弁で「広汽豊田」を設立し、トヨタの自動車を生産し、中国で販売しています。
ネット企業は、中国市民の個人情報を収集する関係から禁止類に指定をされていて、外国人が株主になることができません。しかし、アリババなどの企業は、莫大な資金を必要としており、当時はそれを供給する中国のベンチャーキャピタルがまだ育っていませんでした。そこで、海外から資金を集めるために、VIEスキームという一種の抜け道を使いました。
手法としては、ケイマンなどのタックスヘブンに実体のないシェルカンパニーを設立し、ここに海外の投資家からの資金を集めます。そして、シェルカンパニーは国内の事業会社と、子会社同然にするような契約を結びます。資本関係で結ばれるのではなく、契約関係で結ばれているだけで、世界で普通に行われているホールディングカンパニー制度と同じ構造です。中国の外資規制には抵触しないというものの――
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『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』(2021年4月11日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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