中国ITジャイアントの株価は停滞へ向かうのか
当メルマガの読者さんからご質問をいただきました。ほんとうにありがたいことで励みになります。詳しくはQ&Aのコーナーでご紹介しますが、そのうちのひとつのご質問が次のようなものです。
「アメリカのIT企業と異なり、アリババやテンセントをはじめとして中国のIT企業の株価は2021年に大きく下落しています。中国系ITジャイアントの株価はこのまま停滞するとお考えでしょうか?」。
私は株式市場の専門家ではないので、直近の株価がどうなるかはもちろんわからないわけですが、長期トレンドを考える時に、どのような要素が効いてくるかということであればご紹介することができます。
今回のメルマガテーマとも大きく関わる話なので、本文の中で、回答(というよりも考えるための材料提示)をしたいと思っています。特に重要なのが「米国市場からの上場廃止」「香港上場」の問題です。
ここからは、アリババ、テンセント、京東といった大手テック企業が、安定成長に向けてどのように動いているかをご紹介し、テック企業が抱える大問題「香港上場問題」についてご紹介をします。
まず、リストラといっても、その内容を知っておく必要があります。不採算部門を整理して、選択と集中をするというのは企業として当然のことで、どの部門をリストラするかで、その企業の次の戦略も見えてくるからです。
まずは、アリババ、テンセント、京東の3社について、どのようなリストラが行われようとしているのか、状況をまとめておきます。
アリババのリストラ内容
アリババのリストラは、社内で本地生活サービスと呼ばれている部門に集中をしています。これはECではなく、新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)、フードデリバリー「ウーラマ」、グルメガイド「口碑」(コウベイ)、小売店チェーン「淘菜菜」などの実体小売が中心です。
アリババのビジネスは、大雑把に考えて、淘宝網(タオバオ)、天猫(Tmall)というオンライン小売と新小売系のオフライン小売に分けることができ、このうちのオフライン小売部門にリストラが集中をしています。
ひとつの理由は、景気が悪くなると、ECよりも飲食、旅行、ホテルといった実体小売に早く深く影響が出るということがあります。そのため、今後の業績悪化を見越して、早めに贅肉を削いで準備をしておく必要があります。
もうひとつの理由は、想定通りに利益が出ないという事情です。オンライン小売とオフライン小売の推移を見ると、オンライン小売は安定した推移をしていますが、オフライン小売はコロナ禍以降急速に売上が増えています。
しかし、その一方で、利益があがらないのです。アリババの財務報告書に事業別のAdjusted EBITAの数値が掲載されています。EBITA(Earnings Before Interest, Taxes and Amortization)は、大まかな計算では売上から営業費用を引いたもので、普通の言葉では粗利に相当します。しかし、より細かい定義があり、異なる業種でも収益性を比較できるようにした投資家向けの財務指標です。実用上は「営業利益」の意味で考えていただいて差し支えありません。
アリババのオフライン小売はこの「営業利益」があがらないのです。オフライン小売が欠損を出していることは想定済みで、額も小さく、オンライン小売の利益で吸収できるため大きな問題ではありませんでした。しかし、いつまで経っても黒字化をする気配がなく、2021Q4には-49.87億元と赤字幅が拡大をしてしまいました。
アリババが今後成長を続けるには「ECからの利益を維持」「オフライン小売の売上拡大」「オフライン小売の収益化」の3つが必要ですが、この3つのうち、前の2つは達成ができているのに、最後の1つだけが達成できていません。
そこで大規模なリストラを行い、オフライン小売を利益が出せる体質に一気に変えようとしています。