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リストラを「卒業」と呼び乱発する中国テック企業たち。アリババとテンセントはこのまま沈むのか?鍵を握る安定成長シフトと香港上場問題=牧野武文

テンセントのリストラ

テンセントも大規模なリストラを行なっていますが、不採算部門を整理するという典型的なリストラになっています。

リストラが行われているのは、PCG(Platform and Contents Group)とCSIG(Cloud and Smart Industries Group)の2部門で、はっきり言えば、PCGの「テンセントビデオ」とCSIGのオンライン教育関連サービスです。

テンセントビデオは動画配信サービスで、映画やドラマを配信するサイトですが、YouTubeのような投稿ビデオも配信をしているため、サービスの性格が曖昧になってしまい、以前から苦しい運営となっていました。また、無料で見られるビデオ、有料のビデオが混在をしていたり、試聴前の広告が90秒もあるなど、消費者からの評判は芳しいものではありませんでした。

そこに抖音(ドウイン)などのショートムービープラットフォームが登場したことや、百度系の愛奇芸(アイチーイー)、バイトダンス系の西瓜視頻(シーグワ)などのライバルが登場し、経営はさらに苦しくなっていました。

それでも存在感を保っているのは、テンセントならではのIP獲得力と番組制作力で、テンセントビデオでしか配信できないコンテンツ、番組があったからです。その中で、ブームとも言える現象になっていたのが、テンセントビデオのオリジナル番組「創造営」(チュアンザオイン)です。

▲創造営は、韓国のプロデュース101の版権を購入した中国版。2021年度版では、日本人も17名出場してメジャーデビューの座を競い合った。

この番組は、長期にわたるオーディションリアリティーショーで、出演者は、視聴者の投票で次々と脱落をしていき、最後まで残った出演者がデビューできるというものです。

この投票が投票ではなく、投げ銭であるというところが中国的です。最後まで残った出演者は、かなりの資金を獲得してデビューすることになり、最初からお金をかけたPVをつくったりすることができ、同時に、すでに多くのファンを獲得しているため、いきなりライブパフォーマンスを行なっても観客が集まるということになります。「創造営2021」では国際化をし、中国人だけでなく、日本人も17人が出場し、数名が最終段階まで残っていました。この時点で数億円の資金を獲得していたといいます。

しかし、あまりにもブームが過熱してしまいました。創造営に夢中になった少女が投げ銭をつくるために、犯罪や違法な仕事をする事例が問題視され、最終的に創造営2021は、文化部から番組内容に対する指摘を受け、放映が中止されるという事態になってしました。一応、指摘された部分を修正した上で、創造営2022が始まることになってはいます。

どうも、中国の文化部は、18歳未満の未成年が、夢中になって分不相応なお金を消費するエンターテイメントに対して厳しいようです。ガチャと似た仕組みで、フィギュアを買う盲盒(マンフー、ブラインドボックス)も、いつ規制が入ってもおかしくないとも言われていて、リーダー企業であるポップマートは、当たり確率を公開するなど、文化部の規制を先回りして自主規制を行なっています。

このような状況なので、テンセントビデオがリストラをするのは仕方のないこととも言えます。

もうひとつがCSIGのオンライン教育関連サービスで、これも、政府の双減政策により、補習系のオンライン学習サービスが、営利目的では禁止という厳しい規制が入ってしまったため、サービスを停止するか転換するかを迫られている状態で、こちらもリストラ仕方なしです。

テンセントは18歳未満のスマホゲーム時間の規制もあり、ずいぶんと痛手を受けたことになります。

手堅いECサイトですらリストラ開始

EC大手の「京東」は、投資家からは優等生と呼ばれるほど株価が安定をしていました。

元々、小売店舗から出発をし、実体店舗をオンライン化し、自社で仕入れをし、自社で販売し、自社で配達するというシンプルなビジネスモデルを構築してきました。そのため、アリババやテンセントほどの爆発力はなくても、手堅い商売なのです。家電製品を中心にし、ニセモノブランド、劣悪品は取り扱わないという信用力も店舗時代以来のものです。

しかし、その京東も「卒業」という言葉を使ってリストラを始めています。

京東のリストラの特徴は主力事業全般にわたっていることです。リストラをせざるを得なくなった原因は、新規事業の低迷です。ソーシャルEC「ピンドードー」の成長に対抗して始めた共同購入EC「京喜」(ジンシー)、不動産管理業の「京東産発」などが、業績は悪くないものの、投資をまだまだ必要としていて黒字化が遅れています。

これは京東の強みであり、弱みにもなっていますが、自社で配達するといっても、中国全土での話なので、その規模は桁外れです。物流と配達を担当する子会社「京東物流」は、90%の配達を全国で当日または翌日配送してしますが、その裏では1,300箇所の倉庫を抱えています。さらに、専用の貨物飛行機から、無人カート、ドローン、無人貨物飛行機などをすでに活用し、AIによる無人仕分けセンターも建設してします。

しかし、物流網の構築はまだ終わりません。当日配送のエリアを広げるために、ローカル宅配企業を買収、投資する必要があり、大量の資金を必要としています。また、仕分けセンターや無人配送モビリティなどの研究開発にも研究資金が必要となります。さらには、現在は低炭素も大きなテーマになっていて、燃料車のリプレイスも進めています。

つまり、物流網を構築するために、まだまだ大量の資金を必要としていて、そこで新規事業も資金を必要とすることから、グループ全体をスリム化する必要に迫られています。京東のリストラは、業績悪化により追い込まれたというよりは、次の時代に合わせて会社の体質改善をすることが主体になっているようです。

Next: 中国政府が「消費者保護」に本腰。リストラで対応するテック企業たち

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