ロシアがウクライナの首都キーウの攻略に失敗したことで、プーチンにとっては想定外の事態が次々と起きている。ジェノサイド(大量虐殺)の証拠が多数出てきており、また知識階級がロシアを見捨てて出国しだしている。ロシアの未来さえも潰してしまったプーチンの罪はあまりに重い。(『勝又壽良の経済時評』勝又壽良)
※本記事は有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』2022年4月14日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
侵略側に「正義の戦い」は存在しない
ロシアのプーチン氏は、相変わらず「正義の戦い」であるとウクライナ侵略をカムフラージュしている。戦時中の東条英機が「東亜共栄圏確立」を唱えて太平洋戦争を美化したことと寸分、違うところはない。
侵略戦争は古今東西、一方的な野望に基づくもの。侵略側には、正義の戦いなど所詮、存在しないのだ。
トドメ刺すジェノサイド宣言
ロシア軍は、ウクライナの首都キーウ攻略に大失敗した。世界へ向けて、ロシア軍の稚拙な攻撃と、脆弱な戦車を見せつけたのである。
世界一の武器輸出を誇るロシアは、今回の無惨な敗北で、国際武器市場では、大いにその評価が下がったであろうと噂されている。SNSで、ロシア軍の戦車が簡単に炎上破壊される光景を見せつけられれば、世界の武器商人は手を引かざるを得まいと指摘されている。
キーウ攻略に大失敗したロシア軍には、残虐性で有名なチェチェン軍が配置されていた。敗北による撤退作戦で、絶対にやってはならない民間人の大虐殺を行なったのだ。
チェチェン軍を動員したプーチン氏の責任は免れず、大虐殺がロシアの運命をさらに暗転させる契機になったことは間違いない。
バイデン米大統領は4月12日、ロシアのウクライナ侵攻が「ジェノサイド(集団殺害)」に該当するとの見方を初めて示した。これまでは、戦争犯罪と呼んでおり、ジェノサイドという言葉には慎重であった。ロシア軍撤退後に発見されたウクライナ国民の大量虐殺によって、バイデン氏はジェノサイドと呼ばざるを得なくなったのであろう。
このジェノサイドという言葉が、一過性で終わることはない。綿密な証拠固めによって、ウクライナから国際司法機関へ提訴されることを意味する。
この現実が、ロシアへの経済制裁を長期化させる根拠になるのだ。つまり現在、ロシアに科されている経済制裁は、ロシアがその非を認めて賠償するまで継続されるという意味である。
大量の高技能者を失った
ロシアが、例によって「ねつ造である」とフェイクニュースをばらまいて、責任逃れをしても無駄である。経済制裁を科している西側諸国が、その制裁を解かなければ、それまでのことなのだ。
もう一つ、ロシア産の化石燃料は、脱「二酸化炭素」の国際的な動きの中で、主流な位置を失う運命である。
ロシアが、新たな分野への進出を意図しても、肝心の技術者がプーチンを嫌って続々と出国している。すでに、年間50万人を上回るペースである。
彼らは、異口同音に「隣国を侵略する国には住みたくない」としている。第二次世界大戦が始まる前、ドイツからユダヤ系の科学者・技術者が大挙して米国へ渡ったと同じことが起こっている。
ロシアにとって、大量の高技能の知識階級を失うことが、どれだけの損失になるか。プーチン氏には分っていないのだ。
こうして、ロシアが経済制裁と大量の高技能者を失うことによって受ける影響は、時間が経てば経つほど明確になるであろう。