プーチン言動が犯罪性を立証
ロシア軍が、首都キーウ(キエフ)周辺地域から撤退してから2週間後、ウクライナの地方・中央当局は、戦争犯罪疑惑への広範な捜査に乗り出している。ロシアと同国兵に確実に責任を負わせるよう、国際法廷の場で説得するために強力な証拠を固めることが狙いだ。
ウクライナの検察や保安庁、司法省から集められた捜査官が、監視カメラの映像の解析にあたっているほか、顔認証ソフトウエアといった先端の科学捜査技術と現場での地道な捜査を組み合わせて犯人捜しを行っていると『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月13日付)が伝えている。
キーフ郊外のブチャでの犯罪疑惑捜査には目下、約1,000人が参加しているという。保安庁は、どのロシア部隊や兵士が3月にブチャに駐留、あるいは通過したかといった情報を提供。捜査官らは衛星画像を使って、いつどこで市民が殺されたのか証拠を集めているのだ。
ある弁護士グループは、ロシア軍支配下のブチャで撮影された動画のメタデータ(属性情報)を調べている。国際法廷の場で確実に証拠として使われるようにするためだ。
こうして、ウクライナは、ハイテク技術を駆使しながら、ロシア軍の引き起したジェノサイドの証拠集めを行なっている。ロシアが、「フェイク写真だ」と逃げ回れないように、確実な証拠を集めて追及する方針である。
ジェノサイドは、人道に対する最も深刻な犯罪と広くみなされている。特定の集団を大規模に絶滅させること、というのが定義だ。
第2次世界大戦のホロコーストでユダヤ人600万人が殺されたのが、その例として挙げられている。国連のジェノサイド条約は、「国民的、民族的、人種的または宗教的集団の全部または一部を破壊する意図をもって」、次のいずれかをジェノサイドと規定している。
1. 集団の構成員を殺すこと
2. 集団の構成員に対して重大な肉体的または精神的な危害を加えること
3. 全部または一部の肉体の破壊をもたらすために、意図された生活条件を集団に故意に課すこと
4. 集団内における出生の防止を意図する措置を課すこと
5. 集団の児童を他の集団に強制的に移すこと
米国のバイデン氏が、これまで「ジェノサイド」と呼ばず「戦争犯罪」としてきたのは、前記のような細かい規定があるからだ。
プーチン氏は、ウクライナ侵攻の理由として、「ウクライナはナチス国家だという」主張を重ねている。それによると、ウクライナ人のかなりの部分が「消極的ナチス」であり、共犯者であって、そのため有罪という認識に繋がっている。
さらに、これらの主張を補強するものとして、ロシアが戦争に勝利した後に、ウクライナ人は少なくとも1世代は再教育が必要で、それにより「必然的に脱ウクライナ化がなされる」と訴える主張も聞かれた。英『BBC』(4月10日付)が報じている。
ジェノサイド条約は、前記のように「国民的、民族的、人種的または宗教的集団の全部または一部を破壊する意図をもって」いると規定している。
これを立証するには、ロシア軍が戦闘員や軍関係者だけではなく、民間人を標的にした虐殺を見れば明らかである。まさに、「ウクライナ人の皆殺し」を狙った戦争犯罪である。
プーチン氏は、ウクライナの独立国家としての歴史的存在を否定する発言を繰返した。「ウクライナには実体がなく、それゆえ生存権はない」という発言である。プーチン氏の「ジェノサイド的発想」が端的に示されていると指摘されているのだ。
これが、ジェノサイドを引き起したトリガーと認定されれば、ロシアはナチスドイツの「ジェノサイド」と同罪に問われることになる。