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お粥の“朝ケンタ”や広告キャンペーンが社会現象に。中国全土を制したケンタッキーフライドチキンの徹底的な本土化戦略とSNSマーケティング=牧野武文

地鶏を提供、世界一おいしい中国本土のKFC

では、KFCはどうやって下沈市場に浸透をしていったのでしょうか。そのキーワードは「本土化」です。地元化という意味です。

1987年11月17日、北京市の前門(下町色の強い繁華街)にKFC1号店がオープンします。非常に早い時期であり、西洋式のファストフードが中国に上陸したのは初めてのことであり、大きな話題となりました。

西洋式ファストフードは中国人にはなじみがなかったと思います。それでも意外に早く受け入れられました。KFCのメインメニューであるチキンは、中国人の口に合ったのです。味付けこそかなり違いますが、その調理法は中華料理の技法に通じるものがあります。KFCも「アメリカ式田舎鳥」として売り出し、面白がって試しに食べてみる人が次第にハンバーガーなども食べるようになり、KFCは順調に成長していきました。

1989年には上海1号店が、外灘の東風飯店内にオープンします。東風飯店は、租界時代の西洋建築で風格のあるグレードの高いホテルです。当時の価格はグローバル基準の価格で、中国人にとってはとんでもなく高い値段だったようですが、物珍しさから食べてみる人が多かったと言います。

この頃、子どもの時にKFCで食事をしたことがある人の話を聞いたことがあります。90年代はKFCの価格は、庶民が行くいちばんいいレストラン並みで、子どもにとっては誕生日などの特別な日しか連れて行ってもらえない店だったそうです。今より高級感が強く、中国の中高年にはまだその感覚が残っているそうです。

また、上海の店舗は上海に駐在する欧米人や日本人がよく来る店にもなりました。なじみがあるチェーンなので安心できる、ハンバーガーやコーラは、他ではなかなか食べられないという理由からですが、いちばんの理由はおいしいからです。他国のKFCより確実に中国のKFCのチキンの方がおいしいのです。理由は簡単で、当時の中国ではまだブロイラーなどの養鶏技術がなかったため、すべて地鶏だったのです。味は深く、肉汁もたっぷりと出てくるおいしいチキンです。もちろん、他にいくらでもおいしい鶏料理のレストランがあるので、KFCがいちばんおいしいかどうかはともかく、時間がなくてファストフードで食事を済ませるという時にはKFCに行くことをお勧めします。

業績停滞、戦略なき全国展開で苦境に陥る

2007年になると2,000店を突破して、大都市のほとんどをカバーするようになりました。それまで、中国の人からは「盲目的拡大」とまで呼ばれるほど店舗数を増やしてきましたが、普通のファストフードであれば店舗拡大を止めて、客単価を上げたり、客数を伸ばす深掘りを始めるタイミングです。

しかし、KFCはそうはしませんでした。今度は内陸部の大都市や下沈市場への展開を始めたのです。2010年には500都市3,000店となり、2014年には950都市4,600店となります。これはもう中国の全国津々浦々にまでKFCがある状態です。

しかし、この盲目的拡大が仇になりました。業績がまったく伸びなくなってしまったのです。店舗数を増やしても全体の営業収入が増えない状況になりました。つまり、不採算の店が増えているということです。ここでつまづきを経験し、営業収入は停滞、店舗数は新規開店はするものの不採算店の閉店もするために増えない、出店コストがかかる分、利益は減少という苦しい状況になりました。

戦略も立てずに下沈市場に進出をしていけば、当然そうなるという、反面教師の実例にもなっています。

しかし、この「盲目的拡大」と呼ばれたKFCの戦略は必ずしも誤りだったとは言えません。「vol.027:中国に残された個人消費フロンティア「下沈市場」とは何か?」でもご紹介しましたが、「下沈市場ネット民消費&娯楽白書」(企鵝智庫)によると、下沈市場の消費支出は決して都市に引けをとらないのです。

注目をしていただきたいのが、都市住民と地方中年です。毎月の消費額がさほど変わらないのです。地方の問題は、若い世代が稼げない、というより都市であると若くても稼げるチャンスがあるのに、地方はそれがない。そのため、多くの若者が都市に移動をしていきます。しかし、地方で仕事をうまく見つけた人は、中年になればそれなりに稼げるようになります。

さらに、地方は、消費の性向が、日常の食事、日常の日用品に向かう傾向があります。都市生活者は高級車を欲しがりますが、地方生活者は車よりも美味しいものが食べたいと考えるため、飲食や日用品にとっては有望な市場だと言うこともできます。

ですのでKFCが下沈市場に進出をしたことは決して間違いとは言えません。しかし、下沈市場には下沈市場の難しさがあり、そこを理解せずに進出をしていったことが失敗の原因です。

Next: 資本売却で中国独自運営となり業績が急回復

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