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お粥の“朝ケンタ”や広告キャンペーンが社会現象に。中国全土を制したケンタッキーフライドチキンの徹底的な本土化戦略とSNSマーケティング=牧野武文

広告宣伝費の90%をデジタルマーケットに投入

KFCは下沈市場で、消費者との距離を縮めるだけでなく、子どもと若者との距離を縮める努力も続けています。その武器は、SNSやライブコマースであり、KFCはすでに広告宣伝費の90%以上をデジタルに投じていて、新聞、雑誌、テレビといった旧メディアから完全に軸足を移してしまいました。

昨年の2022年5月、社会現象ともなる玩具を発売します。ポケモンとコラボをしたコダックの玩具です。コミカルな音楽に合わせてコダックが踊るというもので、左右の手を交互に挙げます。これに自分のメッセージを乗せて、SNSに投稿する人たちが現れました。例えば、左の手に「会社に行きたくない」、右手に「金持ちになりたい」というメモを貼り、コダックを動かすと、2つのメッセージが交互に見えることになります。

多くは「恋人」「欲しい」などのメッセージですが、次第に「PCR検査受けたくない」「旅行に行きたい」などの内在するメッセージの代弁者として使う人も現れ、子どもたちに人気となっただけでなく、社会現象にもなっていきました。

毎週木曜日に自然拡散されるKFCのキャンペーン大喜利

2017年に、アリババがスマホ決済「アリペイ」に顔認証決済の機能を搭載すると、それをいち早く取り入れたのもKFCでした。浙江省杭州市などに有機食材を使った高級業態レストラン「K Pro」をオープンします。ここでは、入り口にある大型タッチディスプレイでメニューを注文し、顔決済で決済します。あらかじめアリペイに顔を登録しておく必要はありますが、それさえ済ませておけばスマホがなくても決済をして食事をすることができます。

その後、コロナ禍が始まってしまい、マスク着用の世の中になり、顔認証決済は広がらなくなってしまいましたが、最先端テクノロジーをいち早く採用し、しかも食事も有機食材のみという健康視点でも、話題になりました。

2018年からは、「瘋狂星期四」(クレージーサースデー)というキャンペーンを始めました。毎週木曜日は特定の商品を大幅割引するというものです。割引する商品は毎週変わるため、その告知そのものが広告になります。また、価格も9.9元、29.9元など9を使った価格にするため、次の木曜日にはどのメニューが対象になるのか予想をする人たちもいます。

このクレージーサースデーに関して、面白い現象が起こりました。木曜日にSNSにユニークな投稿をする人たちが現れたのです。その内容はちょっといい話だったり、ダジャレのようなものですが、このような投稿は次第に「瘋四文学」と呼ばれるようになります。

感覚が日本とは少し違うため、あまり面白さが伝わらないかもしれませんが、例えば次のような投稿です。

「今日は僕の誕生日なのに、誰もおめでとうと言ってくれない。家族も言ってくれない。同僚も言ってくれない。夕方になって気がついた。今日は僕の誕生日ではなく、クレージーサースデーの日だった。WeChatペイに30元ください」

というものです。

前半は、今の若者に共通する孤独感のあるある話です。そう思わせておいて、KFCのキャンペーンに結びつけ、ポイントは最後にWeChatペイへの送金を求めていることです。つまり「面白いことを言うのでおごって」という感覚なのです。中には本当にお金を投げ銭する人もいるでしょうが、そこが目的ではなく、ただみんなで大喜利のようなことをやって木曜日を楽しむという自然発生的な現象です。

この瘋四文学は今でも続いていて、毎週木曜日には、SNSにKFCにまつわるさまざまな投稿であふれます。そして、KFCはこの状況を見て、ライブコマースで「瘋四文学の文豪を探せ」というコーナーを設けました。面白い投稿を紹介するコーナーですが、これによりさらに瘋四文学の投稿数が増えています。

Next: スターバックスはKFCになれるのか?

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