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お粥の“朝ケンタ”や広告キャンペーンが社会現象に。中国全土を制したケンタッキーフライドチキンの徹底的な本土化戦略とSNSマーケティング=牧野武文

ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)は、中国の津々浦々、8,500店舗を展開し、今や世界のKFCの1/3を占めるほどにまで成長しました。しかし、他のファースト・フード・ブランドは中国の地方まで展開することはできていません。なぜKFCだけが、中国全土進出に成功したのかについて解説します。(『 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 』牧野武文)

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※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2023年2月6日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:牧野武文(まきの たけふみ)
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。

なぜKFCは中国で大成功できたのか?

みなさん、こんにちは!ITジャーナリストの牧野武文です。

今回は、ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)ついてご紹介します。

KFCは日本でも1,172店舗を展開し、世界では2万店舗以上を展開しています。そのうち中国では2020年末時点で8,675店舗を展開しています。世界店舗の1/3以上が中国の店舗ということになります。

店舗数の多さだけではありません。中国では大都市から地方都市、さらには観光地中心ですが、農村のような鎮と呼ばれる小さな町にまで出店しています。全国の津々浦々にKFCがあるのです。外資系チェーンで、このような地方の隅々まで出店しているのはKFCの他にありません。

しかし、KFCが中国の隅々まで出店をするまでの道のりは簡単ではありませんでした。当初、盲目的に地方都市にまで拡大をしたため、店舗数を増やしても営業収入が増えないという難しい状況に陥ります。

そこで、運営元の米ヤム・ブランズは、中国企業を切り離して、百勝中国(ヤム・チャイナ)による独自運営になります。ここから、ヤム・チャイナは、すでに展開してしまった地方市場の店舗の改革を行なっていきます。

一般の外資系飲食、小売チェーンは、地方市場にまで進出をしようとしません。地方は購買力が弱く、文化的にも都市と大きく異なり、難しい市場だと考えられているからです。KFCはその地方市場に挑戦をし、定着をしました。

一方、スターバックスも2025年までに300都市9,000店舗にする計画を発表していて、これは地方市場に展開するということを意味しています。もし、定着をすれば、KFCに続く「中国津々浦々の外資系チェーン」となるわけです。しかし、本当にスターバックスは、スターバックス文化を維持したまま地方都市に展開できるでしょうか。

今回は、KFCが地方市場に進出するときにどのような施策を行なったのかをご紹介し、中国の地方市場=下沈市場の難しさを考えます。

中国全土で成功したファーストフードはKFCだけ

中国の下沈市場は、沿岸部の大都市市場とはまったく違います。沿岸部の大都市ではライフスタイルも物価感も国際化をして、日本との都市部と大きな違いは、もはやありませんが、中国の地方は別の国と言っていいほど違いがあります。収入や購買力などの指標をグラフなどで可視化をすると、地方市場は下の方に沈殿した表現になります。このため、下沈市場(シャーチェン)と呼ばれます。

そのため、多くの外資系チェーンが、下沈市場には進出をしません。下沈市場は購買力が弱く、人口密度も低いため、都市部と比べてあらゆるビジネス効率が低下をします。そのため、多くの外資系チェーンがフランチャイズをうまく活用した拡大手法を取ります。

例えば、大都市である一線都市は直営店にし、新一線都市でフランチャイズを募集します。フランチャイズの業績を分析して、利益が出ると見ると、フランチャイズの募集を停止し、直営店を出店していきます。そして、今度は二線都市でフランチャイズを募集します。こうして、フランチャイズをうまく活用しながら、拡大をしていきますが、多くの場合は二線都市あたりで拡大がとまります。

マクドナルドが約3,500店舗で、まさにこのパターンになっています。スターバックスも6,000店舗でかなり拡大はしていますが、都市部には集中した多店舗展開をするからで、下沈市場にはほとんど拡大はしていません。

ところが、KFCは8,700店舗であり、かなり小さな街に行ってもKFCの店舗を見つけることができます。初めて知った西洋式ファストフードがKFCという中国人も少なくありません。

vol.154:中国に本気を出すスターバックス。3,000店の新規出店。地方都市の下沈市場で、スタバは受け入れられるのか」で、スターバックスの大胆な店舗拡大計画をご紹介しました。2025年までに300都市9,000店舗にするという計画です。

この計画は成功するでしょうか?もちろん、スターバックスは勝算があるからこそ、この計画を打ち出したのだと思います。しかし、常識では、スターバックスが従来からのスターバックス文化を維持して、そのままの形で下沈市場に進出をしたら、とても受け入れられるとは思えません。下沈市場は、いまだに道端でドリンクが1杯2元、3元で売っている世界です。そこにいくらおいしいからと言って、1杯30元以上もするようなスターバックスのコーヒーを飲む人がいるとは思えません。

では、スターバックスはスターバックス文化を下沈市場に適合をさせ、例えばスタンド店舗にして1杯10元ほどで販売するのでしょうか?だとしたら受け入れられる可能性は十分ありますが、スターバックスのブランドが毀損してしまいます。普通であれば、サブブランドを立てて進出しようと考えるはずですが、そのような発表は特にありません。

あるいは、そう思ってしまうのは、私の頭が古いだけで、下沈市場の人々もスターバックスを待ち望んでいるのかもしれません。30年ほど前、サントリーがペットボトル入りのウーロン茶を中国のコンビニやスーパーで発売したところ、大人たちはびっくりしました。「冷たいお茶を飲む人なんて、中国にはいませんよ!」と言うのです。その通りで、当時の中国はお茶というのは熱くして飲むもので、夏の暑い盛りには緑茶などのさっぱりとした味のお茶を飲めば、涼しくなるというのが常識でした。

しかし、冷たいウーロン茶は若者を中心に売れ、今では冷たいお茶はあたりまえで、夏には冷たい中国茶ドリンクを若者から中高年まで飲むようになっています。

飲食の習慣は、意外に簡単に変わるのです。ですので、スターバックス文化は何も変えることなく、下沈市場でも受け入れられるのかもしれません─

<中略>

Next: 地鶏を提供、世界一おいしい中国本土のKFC

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