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お粥の“朝ケンタ”や広告キャンペーンが社会現象に。中国全土を制したケンタッキーフライドチキンの徹底的な本土化戦略とSNSマーケティング=牧野武文

中国独自運営で復活したKFC

KFCを運営していたのは、米ヤム・ブランズです。ヤム・ブランズは2016年に、業績が伸びないKFCの中国事業を切り離すことを決断します。中国の投資会社や、アリババ傘下のアントフィナンシャル(現アントグループ)などが出資をして、百勝中国(ヤム・チャイナ)を設立し、中国のKFCは中国独自運営となります。ここから再び、KFCの成長が始まります。

ヤム・チャイナは、まず下沈市場の1,000店舗をどうにかしなければならないと、「千鎮計画」を進めます。この1,000店舗に求めたのは、SNS「WeChat」を使って地域の顧客とつながり、KFCと地域住人の距離を縮めることでした。具体的な施策は店舗の自主性に任せ、オンラインプラットフォームを構築し、優秀事例を共有し、水平展開できる環境を整えました。

その中から、雲南省普ジ市の創基尚城店でのユニークな試みが生まれてきました。小学校の授業が終わった子どもたちはKFCの店舗にやってきます。そこで、飲み物を飲みながら、宿題をするのです。店員は通常業務をしながら見守ります。親とはすでにSNSでつながっているので、子どもがやってきた時に親にメッセージを送ります。これで親は安心ができるわけです。そして、親が迎えにきて、精算をして帰っていくというものです。忙しい親からはたいへん喜ばれました。

この他、SNSでは地域でイベントがあるので屋台を出してほしいといったお願いごとから、店舗に対する苦情から、新メニューの感想までさまざまな意見が寄せられるようになりました。

この千鎮計画は、下沈市場の1,000店舗が抱えていた2つの問題を同時に解決しました。ひとつは下沈市場では、オンライン会員への転換がなかなか進まなかった問題です。それまでKFCでは、磁気方式の会員カードを配布して、ポイントが貯まるなどの施策を行っていましたが、磁気カード方式では匿名であるため、精密なマーケティングデータをとることができませんでした。

しかし、SNSを使った地域との連携を行うことで、自然にSNSの店舗アカウントをフォローすることになり、オンライン会員が増えていきました。KFCではもちろん企業微信(エンタープライズ用WeChat)を使って、会員管理を行い、適切なタイミングでのクーポン配布などが可能になりました。

もうひとつは顧客の生の声を聞けるようになったことです。下沈市場の人たちは、人間関係が濃厚で、思ったことはすぐに口に出す人が多い傾向にあります。そのため、SNSでもさまざまな意見を言ってくれます。これは企業にとって、宝の山となります。

“朝ケンタ”でお粥を販売

KFCはこのような消費者との距離を縮める活動を進め、消費者の声に耳を傾けるようになり、KFCにとって決め手となる大きな発見をします。それは、中国にはすでにあたりまえのようにファストフードが大都市から下沈市場にまで浸透をしていたという事実です。

北京であれば、多くの人が朝食として豆漿(濃厚な豆乳)と油条(揚げパン)を食べます。間口が一間しかない小さな店が、粗末なパイプテーブルと椅子を歩道に並べて、そこでサッと食べて仕事に行きます。武漢では熱干麺、上海では大餅と、地方によってさまざまな朝食メニューがあります。いずれも、まだ目覚めていない胃袋に優しくありながら、エネルギー補給ができ、短時間で作れて短時間で食べられるメニューです。これは相当な昔から続く中国のファストフードだったわけです。

KFCでは2002年から「朝ケンタ」としてお粥の提供を始めました。これが好評で、2003年には北京ダックをアレンジした、老北京鶏肉巻や武漢熱干麺の提供を始めました。この時は、その地方で食べられている朝食メニューを、その地方の店舗だけで提供していましたが、さらに他都市でも提供してみたところ、これが好評になります。現在では、朝食メニューの一部が通常メニューにも組み込まれています。KFCは西洋ファストフードとして初めて「お箸を提供する」店になりました。

このような「本土化」を進めた結果、KFCは日本のファミリーレストランに近い感覚のファストフードになりました。家族で行って、親は麺を食べ、子どもたちはハンバーガーを食べるということができるようになりました。

Next: 広告宣伝費の90%をデジタルマーケットに投入

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