ロシアの民間軍事会社「ワグネル」を率いるプリゴジンが反乱を引き起こした。この反乱については、プーチンの自作自演説も含め、あらゆる情報がネットでは出回っている。現時点ではすべての情報を実証することはできない。しかし今回の出来事が、ロシア国内の勢力間のなんらかの亀裂と闘争を象徴している可能性は念頭に置いておいた方が良いように思う。日本では伝えられていない事実について解説したい。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
プリゴジンの反乱、日本では伝えられていない事実
民間軍事会社「ワグネル」を率いるプリゴジンが反乱を引き起こした。ショイグ国防省やゲラシモフ参謀総長などロシア国防省に対する強い不満を表明していたプリゴジンは、ロシア南部、ロストフ州の州都「ロストフ・ナ・ドヌ」に約8,000人のワグネル軍部隊を率いて進軍し、同市にあるロシア南部軍管区本部を占拠した。
その後、3,200人の部隊は160キロ離れた首都のモスクワに向かって進軍したため、プーチン政権の転覆を意図したクーデターが始まり。ロシア治安部隊との間で内戦状態になるのではないかと危惧された。プーチン大統領も反乱を警戒するスピーチをした。
しかし、プリゴジンは説得に応じ、国家反逆罪で告発されないことを条件に、20年来の友人であるルカシェンコ大統領のベラルーシに向かった。プーチンは反乱に加わった「ワグネル」の隊員はベラルーシで安全を保証されるとともに、加わらなかった隊員はロシア国防省との新たな契約が可能だとした。
しかし、27日、プーチン大統領は、「ワグネル」の企業グループによる軍への食料提供ビジネスで、政府が年間800億ルーブル(約1,350億円)を支払っていたと明らかにした。その上で「これらすべてを調査していく」と言明した。これからプリゴジンを汚職の嫌疑で告発する可能性を示唆している。
狂喜する欧米
このようなプリゴジンの反乱に狂喜したのは、ウクライナを支援している欧米諸国である。
プリゴジンのこの反乱はロシアのエリート層に内在する反プーチンの動きを象徴しており、これから同種の反乱が連鎖し、その結果、プーチン政権が打倒される可能性があるとする論評が欧米の主要メディアをにぎわせた。
しかし、こうした論評が希望的な観測に過ぎないことがすぐに明らかになった。まず「ワグネル」だが、占拠した「ロストフ・ナ・ドヌ」では民衆に歓喜で迎えられると同時に、占拠したとされるロシア南部軍管区の幹部とも穏やかに懇談する光景が見られる。
次の動画を見てほしい。
<現地にいた独立系ジャーナリスト、パトリック・ランカスターの報告。現地はお祭り騒ぎ>
<「TikTok」に掲載されたプリゴジンと南部軍管区の幹部との穏やかな懇談>
@toputinperspective #wagner leader Prigozhin arrives at the #russia ♬ original sound – The Putin Perspective
実はこのプリゴジンの反乱はプーチン政権の転覆を狙ったクーデターではなく、ショイグ国防相が6月末までに雇い兵と直接契約を結ぶよう命じたことが原因だ。「ワグネル」も対象としていた。これは「ワグネル」を実質的にロシア国防省の管轄下に置くことを意味する。「ワグネル」の組織としての独立性に強く拘るプリゴジンが抗議する目的で引き起こしたことであり、いわゆるクーデターではなかった。現国防相のセルゲイ・ショイグとロシア軍参謀総長のヴァレリー・ゲラシモフの即時辞任を要求することだったようだ。
したがってこれは、「ワグネル」とロシア国防省との間の固有の問題であり、ロシアの指導層内部の政治的な亀裂を象徴するような事件ではなかったことが明らかになった。欧米の論評は希望的観測にすぎなかった。
これが事件の概要である。しかし、今回の事件がロシア国内のクーデターの発生と、プーチン政権の転覆の可能性を示唆するものではないにしても、その実態は報道されているよりもはるかに深い。