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経財白書も「まだ日本はデフレ」と主張…なぜ政府は国民の声を無視して物価を上げ続けるのか?=斎藤満

経財白書「物価分析」に2つの問題点

まず、第1に、そして本質的な問題が、本文63ページの次の文章に表れています。

「需給が均衡した状況でも、サービス物価上昇の持続性を確保するという観点から、ULC(単位労働コスト)が前年比プラスで推移し、増加している労務費が価格に転嫁されることで、安定的に物価が上昇していくことが重要である」と言っている点です。

少し補足すると、白書は「財物価」と「サービス物価」とに分けて分析していて、財物価は輸入物価にやや遅れて追随し、輸入物価が低下していることから、財物価も夏場から低下するとしています。一方、財物価に比べて低い上昇のサービス物価では、その変動要因としてULCが重要で、これが上昇すればサービス物価も上がり、財物価が減速しても物価全体の上昇が維持できると見ているようです。

単位労働コストが前年比プラスを維持し、その労務コスト高を価格転嫁させようとしていますが、これは1970年代から1980年代にかけて日本でも見られた「賃金物価の悪循環」に至るリスクがあり、FRBはこの連鎖を断ち切るために労働市場を冷やして労働コストを下げようとしています。日本はこの逆を行っています。

もう1点が、69ページにある「今はデフレ脱却に向けた動きが出てきた状況」との認識です。白書の中でも認めている政府の「デフレ認識」は、月例経済報告を基に見ると、2001年4月から06年6月までの間と、09年11月から13年11月までの間です。安倍政権も14年には「もうデフレではない状況」と認めています。それが白書は今になって「デフレ脱却の動きが出てきた状況」としています。

デフレは好ましくないので、それから脱却するための物価押し上げは正当化されるとの認識のようで、この10年、もはやデフレではないとしながら、デフレをネタに、物価押し上げを正当化していることになります。

財務省の論理が前面に

かつての「経済白書」にはこうした認識はありませんでした。白書が「経済財政白書」となり、政府財務省の意向がここに強く出るようになったと見られます。

財務省にしてみれば、1千兆円を優に超える債務を抱える中で、政府がばらまき予算で毎年巨額の財政赤字を出し続けるので、これを可能にする債務軽減策が必要になります。

もっとも、政府が国民に増税を求めると強い反発を招くことも分かっているので、日銀に金利を上げないようにさせたうえで、インフレにして債務の目減りを進め、さらにフローではインフレ増税を利用し、歳入を増やす算段です。名目で1,500兆円の債務も、年に4%のインフレとなれば、年に60兆円債務が目減りし、実質負担が軽くなります。

またインフレで消費税が増加し、所得税や社会保険料も名目所得の増加により、税率区分、負担率区分が高まり、負担額が増えます。国からすれば、何も言わなくてもインフレで勝手に増税になります。本来ならこれで金利も上がり、インフレは金利コスト増の財政負担を増やすのですが、今は日銀が金利を抑えているので、政府の金利負担は増えないまま、インフレ増税の恩恵を受けられます。

ここに日銀の大規模緩和が大きくかかわっています。財務省もかつては金利負担を抑えるために、景気はむしろ悪くてもよいと言っていたくらいです。実際、国債利回りが大きく上昇した際には、当時の竹中大臣の協力のもと、まさかのGDPマイナス成長を公表し、金利が一気に低下し、政府の負担減となった経緯があります。金利コストを下げるためにはマイナス成長も辞さず、でした。

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