内閣府は8月29日に今年度の「経済財政白書」を公表しました。ここには政府の物価に対する偏向が見られる点が気がかりです。日銀だけでなく、政府も一緒になって「物価が上昇を続けることが望ましい」との認識のもと、個人の声を無視した物価対応がとられそうです。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2023年9月1日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
物価高推進は日銀だけではなかった
日銀の植田総裁が、6月にポルトガルで行われたECBフォーラムに続いて、8月26日にジャクソンホールのシンポジウムでも、「日本の基調インフレはまだ目標に達していないので、金融緩和を続ける」との姿勢を繰り返しました。
海外の目からは、「インフレが進んでいるのになぜ?」と奇異の目で見られています。
そればかりか、日銀が自らまとめている「生活意識に関するアンケート」調査でも、今日の物価高を「良し」とする人が2.8%にとどまり、86%の人が「困ったこと」ととらえていることが示されています。日銀は86%の人を敵に回し、2.8%の人のために物価をさらに押し上げようとしています。
これに国民から反発が出ていることは紹介した通りです。
これに対して、政府はガソリン価格の上昇や電気代の高騰に対処しているので、日銀よりは物価高を心配しているかと思いきや、今回の「白書」では日銀同様に、2.8%の人のために物価を安定的に上昇させたいとの意向が強く表れていました。物価の安定よりも物価の上昇持続を望ましいと判断しています。
国民の共感を得られるとは思えず、政府の価値観を押し付ける気でしょうか。
物価の安定より物価上昇持続を目指す政府
今回の白書、物価について多くのページを割いて分析していますが、分析の内容は良いとしても、その価値観には大きな疑問を感じます。
政府日銀はこれまで物価の安定こそが経済の基本と考えていたはずです。それが「デフレからの脱却」を飛び越えて、物価の安定的な上昇が望ましいとの姿勢に変わっています。
とくに物価の分析部分で、2つの点が気になります。