以下は、前回の記事でも紹介したアメリカの著名なシンクタンク、「ユーラシア・グループ」が出したレポート『トップリスク2024』には未来のトランプ政権を予想して次にように書いている。長いが引用する。
<リスク1:米国対自国>
ユーラシア・グループの2024年トップ・リスク・レポート
2024年1月8日
著:イアン・ブレマー、クリフ・クプチャン
https://www.eurasiagroup.net/live-post/risk-1-the-united-states-vs-itself
トランプが再び勝利したら?
第2次トランプ政権は、行政権力を強化し、チェック・アンド・バランスを弱め、法の支配を弱体化させる措置を取るだろう。トランプは、障害とみなす数千人の公務員を粛清し、経験の浅い忠実な職員と入れ替えることで、連邦政府機関を取り込もうとするだろう。
(中略)
「ディープ・ステート(深層国家)」を一掃したトランプは、法の支配を破ることにあまり制約を受けなくなるだろう。彼の最初の仕事は、FBI、司法省、IRSを武器にして、自身とその同盟者に対する手続きを妨害し、政敵を迫害することだろう。バイデンとその家族もその対象になるだろうが、野党議員、メディア関係者、献金者、批評家など、この追放主義的マッカーシズムがどこまで及ぶかは、特に、政治的異論をよく言えば冷え込ませ、悪く言えばほぼ完全に封じ込めるという意味で、政治的スペクトル全体の行動を決定する重要性を示すという意味で、非常に
重要な問題である。第二次トランプ政権が無法な行動をとった場合、連邦レベルではそれを抑制する救済策はほとんどないだろう。議会が分裂したり共和党に支配されれば、トランプ大統領の行き過ぎた行動をチェックすることはできないし、する気もないだろう。保守的な最高裁は、その3分の1がトランプによって任命され、独立性を保つだろうが、反抗的な大統領に対して判決を執行する権限は限られ、南北戦争の終結以来アメリカが経験したことのないような憲法上の危機が発生する可能性がある。
これを見ると、2期目のトランプ政権は司法省を始め各省庁のベテラン連邦政府職員を粛正し、連邦政府に対してホワイトハウスが権力を集中するホワイトハウス独裁制を構築する可能性が高いというのだ。
この体制を確立するためにトランプは、「法の支配を弱体化させる措置を取り」、トランプの反対者やバイデン一家を始め、野党民主党を迫害するとしている。
「プロジェクト2025」
このような予測を見ると、耳を疑いたくなる。これはまさに、ホワイトハウスが連邦政府を取り込み、その命令に絶対的に従わせるいわばホワイトハウス独裁制の成立になるだろう。これは、ホワイトハウスがすべての行政を独占することで、司法(最高裁)と立法(議会)に制限を加えて独立性を奪い、アメリカの伝統的な三権分立の理念を破壊することにもなりかねない動きだ。
バイデンならびにトランプを批判したすべてのものに復讐を誓っているトランプであればこのようなことも願望するに違いないが、実際に政権を樹立するとなると、合衆国憲法ならびに米国の法的な規制があるので、これは実質的に不可能なのではないだろうか?
しかし、ホワイトハウス独裁制の樹立を現実的に構想するプロジェクトがある。それが、「プロジェクト2025」だ。2017年に成立した前トランプ政権には、統一的な政策は、アメリカ極右の大物、スティーブ・バノンを中心としたチームが作成した。それは比較的に小規模なグループだった。しかし、2025年のトランプ政権の基本政策を準備している「プロジェクト2025」は、はるかに規模が大きく、組織化された集団だ。
Project 2025
https://www.project2025.org/
このプロジェクトは、2024年のアメリカ大統領選挙で共和党が勝利した場合に、アメリカ連邦政府の行政部門を再編成する計画である。プロジェクトの参加者は特定の大統領候補を推すことはできないが、多くはトランプやトランプ2024大統領選挙キャンペーンと密接なつながりを持っている。この計画は、「ユニタリー・エグゼクティブ理論」を基づいているとしている。この理論は合衆国大統領が行政府に対する絶対的な権力を持つべきだとする理論だ。つまり、大統領就任と同時に行政府全体を速やかに乗っ取るというものである。
この計画の策定は、アメリカの保守系シンクタンクである「ヘリテージ財団」が主導しており、チャーリー・カーク率いる「ターニングポイントUSA」、マーク・メドウズ元トランプ大統領首席補佐官をシニアパートナーとする「保守パートナーシップ研究所」、トランプ政権の元行政管理予算局長のラッセル・ヴォートが率いる「アメリカ再生センター」、スティーブン・ミラー元トランプ大統領上級顧問率いる「アメリカ・ファースト・リーガル」など、約80のパートナーとの共同作業で進められている。