賃上げどころでない企業も
しかし、この賃上げ推進税制にも問題があります。
賃上げのために法人税を減額するのですが、法人税収が減る分を歳出カットでバランスを取ればよいのですが、歳出は拡大するばかりです。そうなると法人税が減る分を所得税の増税か社会保険料の引き上げなどで補う必要が出てきます。
そうなると、7%の賃上げで喜んだ労働者も、結局は自分の税金支払い増によって賃上げを実現したようなもので、実質的な手取り増はそれだけ減ります。
それよりも問題なのは、法人税減税の支援を受けられない企業、およびその労働者です。
すべての企業が減税措置を受けられるわけではありません。つまり、賃上げどころでない企業や法人税を納めるだけの利益を上げていない企業も多く、賃上げできる企業との条件格差が一段と拡大します。
しかもそれを政府が税制によってあおる形になることです。
税の優遇を得て質の良い労働力を確保できる企業と、賃上げも税の優遇もなく、低賃金で労働力が取れない企業との格差が開きます。新卒はもちろん、中途採用においても労働条件の良い企業に人は流れます。
その結果、質の良い労働力は賃金条件の良い大企業に集中し、中小零細企業はますます人手不足が深刻になり、最後には「人手不足倒産」が増える可能性があります。
ある意味では存続がぎりぎりの経営が厳しい状況の企業に対して、政府が税制によって後ろから蹴とばすようなもので、政策的に「ゾンビ企業」を淘汰し、日本経済を効率化するための荒療治、とみることもできますが、雇用の9割は中小零細企業に勤めています。
その多くが失業の危機に追いやられるわけで、政治的にこれを後押しすることがよいのか、議論の余地があります。
人手不足倒産は前年比86%増
人手不足倒産はすでに増えています。帝国データバンクによると、昨年の人手不足倒産は前年比86%増の260件に上っています。物流や建設業で特に多くなっています。
これが今年はさらに拡大すると見込まれます。
まずこの4月から時間外勤務の規制が始まり、物流業界には大きな負担となります。そこへ春闘賃上げ率が昨年以上に大きな格差をもたらす可能性があるからです。