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賃上げ減税が人手不足倒産を増やす悲しき連鎖。労働者の9割が勤める中小零細企業は虫の息=斎藤満

産業界で大企業を中心に賃上げのムードが高まっています。第一生命は初任給の16%引き上げに7%の賃上げを表明、松屋は年収を10%引き上げると言います。政府の賃上げ減税(法人税)もあり、今年の春闘は昨年の3.58%(定昇込み)を上回る可能性が高まっています。

しかし、大幅な賃上げができる企業と、賃上げ分を価格転嫁できずに、賃上げにも慎重な企業もあり、明暗が分かれそうです。そして明らかに賃上げ格差が明示されれば、人はより高い賃金の企業に流れます。人手不足が深刻な企業も現れ、人手不足倒産が多発する可能性があります。その受け皿作りも考える必要があります。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)

【関連】30年ぶり賃上げがもたらす最悪の格差社会。恩恵のない弱者と年金生活者は物価上昇で火の車=斎藤満

※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2024年1月24日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

7%賃上げ表明企業続々

大企業を中心に、24年度に7%の賃上げを表明する企業が増えています。政府の賃上げ推進策を受けて昨年秋、真っ先にサントリー、明治安田生命が7%賃上げを表明しました。

政府は賃上げ推進税制を組み、7%以上の賃上げを行った企業に対して、大企業では最大35%の法人税控除を打ち出しました。7%という水準がカギとなります。

これに追随するように、最近では第一生命が初任給を16%引き上げるほか、賃上げについても7%の引き上げを表明しました。またイオンは40万人のパートの時給をこの春から7%引き上げることにしました。そして松屋は職員の年収を10%引き上げると言います。

大企業を中心に7%以上の賃上げを表明するところが増え、この調子なら昨年の賃上げ率3.58%を上回る可能性が高まっています。

大企業には賃上げ余力大

実際、大企業については賃上げ余力が高まっています。

財務省の「法人企業統計」によると、昨年7-9月期の資本金1,000万円以上企業の売上高経常利益率は6.5%と、1年前の5.7%からさらに高まり、最高益を更新する企業が増えています。

そしてもう1つ、企業の利益準備金、つまり「内部留保」は9月末で568兆円に上ります。これは日本のGDPの1年分にほぼ匹敵する規模です。

企業の利益が内部留保という形で大きく積みあがっているわけで、それだけ人件費に振り分ける余力が大きくなっていることになります。

税金で賃上げの一石二鳥

人手不足が深刻化する今日、高い賃上げを表明することは、質の良い労働力を確保するうえで大きな武器となります。

しかし、これは人件費増というコスト高になるので、どの企業でもとれる策ではありません。ところが、岸田政権が賃上げ促進税制で後押しをすることになったので、ここに大きな道が開けることになりました。

今回、7%の賃上げを表明する企業が多いのは、政府の賃上げ税制と深く関わっているとみられます。つまり、7%以上の賃上げをした企業には最大35%の税金が控除されるので、多少無理をしても7%の賃上げをすれば税金で賃上げの一部を賄うことができるわけです。

つまり、高い賃上げ表明で、雇用確保への広告効果と、法人税減税の利益との「一石二鳥」となります。

Next: 賃上げどころではない企業はどうなる?9割の労働者がさらなる苦境へ

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