企業の短期利益志向
企業は誰のものか、米国では資本家、つまり株主のものという面が強いのに対し、バブル以前の日本では、資本、経営者、労働力の三位一体の形、ないしは労働力のウエイトが比較的高い時期が続きました。新卒の採用は20年、30年の長期投資と考えられていました。
しかし、米国流の経営思想が広がり、日本企業も次第に短期利益の極大化に走り始めました。
雇用形態の流動化もあって、長期戦略が立てにくくなり、企業は目先の利益、株価重視の姿勢となり、政府も米国の「年次要望書」を政策の柱としたうえで、あとは労働者の立場よりも企業の利益を優先に考えるようになりました。
そして近年では非正規雇用が労働者全体の4割近くを占めるに至りました。
労働者の再生産困難
日本のバブルを挟んで、その前後で日本の労働者のおかれた環境は大きく変わりました。
80年代までは、初任給は安くても、いずれ昇給して給与が増える期待があり、定年まで働ける安心感があったので、若いうちから借金をして車を買い、住宅ローンを組んで家を買うことができました。
そして55歳の定年後は退職金と年金で平穏に暮らせる安心感がありました。結婚、子育ての不安もなく、子どもは祖父母やご近所が面倒を見てくれるので、保育所、幼稚園の心配もありませんでした。
ところが、終身雇用制、年功序列制が崩れ、いつ首を切られるか、配転されるかわからなくなり、転職をすると給与が以前より減るリスクが高まりました。国税庁の調べによると、正社員の年収560万円に対して、正社員以外では200万円(非正規で180万円)と、雇用形態によって給与水準が大きく異なるようになりました。
正規雇用以外の4割近い労働者は、家賃を払って社会保険料を払うと、食べてゆくのがやっとという所得環境で、貯蓄もできず、結婚、出産どころではなくなります。すでに子どもを持つ世帯には児童手当が支給されますが、単身の非正規労働者は所得制約から結婚、出産、家の購入へのハードルが著しく高くなります。働いても労働力の再生産もできません。
この環境が続く中で、結婚件数が減り、出生数が減り、少子化、人口減が定着し、生産年齢人口も減って恒常的な人手不足が生じるようになり、企業経営にも足枷になってきました。人手不足倒産が増え、雇用確保のための賃上げが、賃金コストインフレを引き起こすようになりました。日本経済停滞の大きな要因になっています。






