中国のサイゼリヤは「高価格帯」のファミリーレストラン
サイゼリアの魅力は、何と言っても「安さ」ですが、中国の消費者にとって驚くほど安いというわけではありません。サイゼリヤの客単価は45元で、これは日本に置き換えると、ロイヤルホストのような高価格帯のファミリーレストランの感覚です。
多くの調査レポートで、消費者は一食のコストを30元以下にしたいと考えており、麺や一品料理の中華ファストフードが盛況になっています。客単価40元以上の飲食店もクーポンなどを発行して、実質30元程度で食べられるようにしています。サイゼリヤもクーポンの発行などは行なっていますが積極的ではなく、多くの人が45元を払って食べています。
つまり、中国ではサイゼリヤは激安ではないのです。それなのに、なぜ人が集まってくるのでしょうか。
サイゼリヤについては、まだ不思議なことがあります。サイゼリヤはセントラルキッチン方式を採用し、ほとんどの料理は集中一括調理され、各店舗に配送されます。店舗ではそれを開けて、温めるなどの簡単な調理だけで提供できるようになっています。
中国では、コロナ禍以降「預制菜」(ユージーツァイ)と呼ばれるレトルト食品が一気に普及をしました。コロナ禍で飲食店に行くのは不安だ、でも、本格的な料理が食べたいというニーズが生まれ、冷凍やレトルトの料理がスーパーなどでは大量に売れ、外売(ワイマイ、フードデリバリー)でも預制菜の配達が行なわれました。自宅で電子レンジで温めたり、鍋で簡単な調理をするだけで、本格的な料理が食べられることから人気となり、一気に広がりました。
また、飲食チェーンでも、このセントラルキッチン方式と預制菜が組み合わされ、サイゼリヤと同じような方式を採るチェーンが一気に増えました。
しかし、今、この預制菜に対する反発が起きているのです。問題は、保存料や着色料、化学調味料といった添加物です。このような食品添加物の技術は、ゲームのLoL(リーグ・オブ・レジェンド)の中で使われていた錬金術の名前から「ヘクステクノロジー」と呼ばれ、批判の対象となっています。中には、一切の添加物を拒否するという方もいて、普通の人はそこまででなくても「預制菜はできるだけ食べない方がいいな」ぐらいな感覚になっています。
ところが、サイゼリヤは、そのものずばり預制菜であり、避けられてもおかしくないのです。それでなぜ人気なのでしょうか。
この疑問をある中国人に尋ねてみると「サイゼリヤはいいんですよ!」と言われました。なぜ、サイゼリヤは許されて、他の預制菜はだめなんでしょうか。これがもうひとつの疑問です。
また、中国ではまだまだ処理水放出の問題は尾を引いていて、だいぶ薄れたとは言うものの日本の食品や化粧品を避ける感覚が残っています。「サイゼリヤは日本企業だとみな知っていますよね。魚介類の料理もあると思うけど、食べて平気なの?」と尋ねると、これも「だって、サイゼリヤはいいんですよ!」と特別扱いなのです。
なぜ、サイゼリヤは処理水放出などの日本リスクの影響を受けていないのでしょうか。
「中国の平均所得は日本と比べるとまだまだ低い、しかも中国は景気が低迷をしている。だから激安のサイゼリヤが受けている」という単純な理解だと、中国市場の安さを求める意識やサイゼリヤという企業の強みを読み違える可能性があります。極端な話、今や中国では「安かろう悪かろう」の製品を販売したら、誰も見向きもしてくれません。
今回は、サイゼリヤがなぜ中国で受けているのかを読み解き、「安さ」の本質とは何なのかを考えます。