2024年10月23日に東京メトロがついに上場しました。そして、初値が公開価格から36%アップしたということで、IPOの抽選に当選した方は利益が出せたのではないかと思います。一方で、まだ持っている方や、これから買おうとしている方も多いのではないかと思います。 今回は、東京メトロの株価が上昇したのかということや、今売るべきなのか、買うべきなのかということ、そしてIPOとはどのようなものでどう取り組むべきかということを考えてみます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
初値で36%上昇!
公開価格が1,200円で、初値が1,630円ということで、IPOで100株当たっていて、初値で全て売っていたとすれば、12万円が16万3,000円となり、4万3,000円儲かった計算になります。
IPOの初値で36%上昇するというのはかなり高い上昇率です。
※参考:東京メトロの初値は1630円、6年ぶり大型上場に個人投資家から旺盛な需要 – ロイター(2024年10月23日配信)
初値で下がるということは失敗例となりますが、通常10~20%上昇すれば御の字といったところです。
しかし、素直に「上がって良かった」と言えない事情もあります。
東京メトロの公開価格が決まる前に公開した記事の中で、当時の目安の価格が1,100円となっていてかなり安いという話をしました。
1,100円という価格は、PERで言うと約13倍、配当利回りが3.3%くらいとなり、優良企業の東京メトロにしては安いものでした。
結果として公開価格は1,200円となりましたが、それでも利回りは3%以上ありました。
この価格ならおそらく買いたい人が殺到するだろうと思っていましたが、いざ上場してみるとやはり需要が殺到して人気化しました。
公開価格が安すぎた?
公開価格1,200円というのは果たして適切な価格だったのでしょうか。
IPOで投資家が買った購入代金が誰に入るかというと、東京メトロの株主である国や東京都となります。
要するに、その背景にあるものは税金です。
この売却によって、東京メトロの50%の株式、時価総額約1兆円のうちの5,000億円くらいが売り出されました。
もし、公開価格が1,200円という安い価格ではなく、例えば1,400円に設定していたなら、国と東京都にもう1,000億円くらい入ってきた可能性があります。
その1,000億円がどこに行ったかというと、もちろん投資家ということになりますが、その背景には証券会社の事情があります。
IPOは「抽選」ということにはなっていますが、厳密な意味での抽選ではありません。
IPOの株は、まず証券会社などの幹事会社に割り当てられ、それぞれの証券会社の中での抽選となります。
この抽選には証券会社の思惑が入り込むことになります。
IPOは抽選で当たったら初値では上がる可能性が高く、証券会社としては富裕層のいわゆる“太客”に割り当てた方がその後の取引につながりやすくなります。
公開価格が安く、初値で大きく上昇したということは、見方によっては、国や東京都の収入となるはずだったお金が富裕層に流れたと言えなくもありません。
今回の公開価格の値付けに関しては、安すぎたのではないかという疑念を抱かざるを得ません。
人気化
今回の東京メトロの初値の上昇は、単に公開価格が安すぎただけではなく、人気化したというところもありました。
人気化した一つの理由としては、配当が高かったことがあります。
配当性向が50%弱、利回りも公開価格で3.3%とかなり高かったです。
さらに、広報活動にも力を入れていて、テレビCMも流れたりしました。
東京メトロは良く知っている安心感のある企業で、配当が3%受けられるとなれば人気化することにもうなずけます。
Next: 今からでも買える?新規公開株との付き合い方