イランの石油生産破壊も
OPEC諸国には反米感情が高まりかねませんが、米国とまともに喧嘩はできません。
そこで狙われそうなのがイランです。サウジは自ら減産したくないものの、原油の供給を減らすためには、イランの石油生産施設を破壊し、全体の供給量を抑える手段としたいのではないかと思います。イランは現在、日量320万バレルの石油を生産し、中国などに170万バレル輸出しています。
サウジは近年、イスラエルに接近し、ユダヤとイスラムの敵対関係を超えて良好な関係を構築しています。サウジと米国との間には厄介な問題もあり、米国にイランを攻撃させるのは容易でありません。
しかし、イスラエルはすでにガザのハマス、レバノンのヒズボラと戦闘を続け、背後のイランとも報復戦の応酬を展開しています。いずれも世界地図から消滅させたい敵対関係にあります。
サウジはイスラエルに働きかけ、イランの石油施設を空爆し、破壊するよう求める可能性があり、イスラエルシンパのトランプ次期大統領も反対しない可能性があります。この場合、イランの輸出余力がなくなる程度の被害なら米国は今より170万バレルほどの増産をしても全体の需給は変わりません。
またイランの石油施設全体を破壊すれば、ロシアが増産してイラン、中国に輸出する道が開けます。しかし、イランの石油施設破壊となれば、市場では地政学リスクが高まり、原油価格の上昇だけでなく、いったんはリスクオフの株売り、米国債買いが生じ、リスクオフのもとで円やドルが買われる可能性があります。
イスラエルがヒズボラと停戦に出れば、こうした地政学リスクは軽減されますが、反面イランを攻撃する口実もなくなり、原油需給の悪化、原油価格の下げが問題になります。
米国のインフレは改善せず
トランプ氏のエネルギー増産の狙いは、エネルギー価格の下落を通じて米国のインフレを退治し、バイデン政権で実現しなかったインフレ抑制を、トランプが実現することを狙っています。
しかし、米国によるエネルギー増産は米国自身の生産増、所得、雇用の増加を通じてインフレ圧力になる面があります。
トランプ政権ではこのエネルギー増産とともに、企業や個人への大幅減税を予定し、金融や仮想通過などでの規制緩和も予定していて、これらが米国景気を刺激し、潜在成長率(1.8%前後)を上回る成長が続き、需給ひっ迫の中でインフレ圧力が高まります。しかも関税賦課で安い輸入品が入らなくなり、その面からもインフレを助長しかねません。
このため、少なくともFRBが注視するエネルギーを除いたコアのインフレ率はむしろ高まる可能性があり、トランプ氏が狙うインフレ抑制の効果は上がらないリスクが大きいとみられます。






