「トランプ政権2.0」のエネルギー政策は、世界の温暖化対策や地政学的リスクにどのような影響を及ぼすのでしょうか。化石燃料増産によるエネルギー価格下落が予想されますが、ほかにもOPECやロシアの苦境、イランの石油施設攻撃リスク、さらには米国経済やドル基軸体制への影響も考えられます。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2024年11月22日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
化石燃料増産が世界危機を招く?
2025年1月にスタートする「トランプ政権2.0」では、再びパリ協定から離脱し、石油・天然ガスの増産を図り、米国のエネルギー価格を下げてインフレの改善を進めるといいます。
少なくとも4年間、化石燃料の増産を進めれば、世界のCO2抑制努力が報われず、温暖化を促進してしまうリスクがあることは指摘される通りです。
米国自身、近年は自然災害で大きな被害が出ているために、多くの国民が温暖化の抑制を求めますが、今回はそれ以上にトランプ氏の強いリーダーシップに賭けたい国民が多く、温暖化防止は、少なくとも米国ではしばし棚上げとなりそうです。
しかし米国のエネルギー増産は、地球の温暖化危機を招くだけでなく、別の形で世界に大きなリスクを課す可能性を秘めています。
OPEC、ロシアが苦境に
まず、米国のエネルギー増産は、OPEC、ロシアの「減産をして石油価格を維持しよう」との努力に水を差します。
石油収入を国家の柱とするこれらの国は、原油価格を高値維持するために、あえて減産を進めています。その中心はサウジアラビアで日量300万バレルの減産をしています。UAEは140万バレル、OPECプラス全体で586万バレルの減産中です。
その他の中東産油国ではそもそも減産余地が少なく、もっぱらサウジとロシアの減産が柱になっています。このうちサウジアラビアは多くの王族メンバーを養うためには石油収入の確保は不可欠で、減産してでも価格を維持しなければなりません。
ロシアもエネルギー収入が国家財政の中核になっているので、戦争を続けるロシア経済はエネルギー価格いかんとなっています。今は価格維持のためにやむなく減産に応じています。
そこへ、すでに世界一の産油国になっている米国が、トランプ政権のもとでシェールガスやオイルの増産を計画しています。すでにトランプ氏はEUのフォンデアライエン委員長と会談し、欧州向けに米国の天然ガスを供給する話もつけています。
中国をはじめとするエネルギー需要低迷の中で、米国がその増産に出て世界への供給を増やせば、世界のエネルギー需給は緩和し、価格が下落しやすくなります。
減産していながら価格が下落すれば、OPECもロシアも大きな打撃となります。
ロシアはトランプ大統領のイニシアティブで停戦となれば、戦争のための経済負担は軽減されますが、それでも石油などの国家収入は減り、経済的には大きな打撃となります。またOPECは単純に原油価格の低下で収入減となり、減産は収入減に追い打ちをかける懸念があります。
しかしOPECまで増産すれば、どこまで価格が下落するかわからないジレンマとなります。原油価格が急落すればロシア経済も持ちません。