FinFET構造は、1989年の国際電子デバイス会議で日立製作所の研究グループによって提唱されたデルタトランジスタが最初である。GAA構造は、1988年に東芝の研究グループによって提唱されたのが最初だ。フラッシュメモリの発明者・舛岡富士夫氏が含まれている。
以上のように、世界半導体技術の開発では日本技術陣が全て基礎を提供している。この実績が、ラピダスの富田一行氏によってGAAのSLR技術を生み出した背景にある点を記憶に止めたい。冒頭で「腐っても鯛」と記したのは、こういうエピソードがあるからだ。
ラピダスは、「短TAT生産システム」を掲げている。製造プロセス全体の効率を高めるシステム改革である。TATとは、製造の各工程にかかる時間を指す。短TAT生産システムは、この時間を最小限に抑えることを目指すものだ。具体的には、以下のような特徴がある。
- 各工程の処理時間を短縮し、全体の生産サイクルを高速化する
- 多様な製品を効率的に生産できるように設計する
- 製造ラインの変更や調整が容易で、需要の変動に迅速に対応する
他の半導体メーカーも、同様の効率化技術を採用している。ラピダスの短TAT生産システムは、特に、多品種少量生産に対応できる点で他社との差別化を図る。この決め手が、「前工程」と「後工程」を接続した全自動化である。これによって、納期を6割も短縮できるメリットが生まれるのだ。通常、多品種生産少量は納品までに時間がかかるもの。この難点を解決して「短納期」を実現できるので、対ユーザー交渉で大きな武器になる。
TSMC一強の危機感
ラピダスの総合的な「強み」は、しだいにユーザーに知られてきたようだ。TSMC「一強体制」の弊害が認知され始めてきたことに現れている。一つは、地政学的な理由である。「台湾有事」が起これば、世界の最先端半導体供給がストップする。ラピダスが、こういうリスクをカバーできるとの認識が広まっているのだ。サムスンは、「5ナノ」半導体で低い歩留まり率によって採算が不可能な事態に陥っている。この結果、TSMCとラピダスが二大ファンドリーとして世界を牽引するという期待が高まってきた。
半導体の国際展示会「セミコン・ジャパン」が12月11日、東京ビッグサイトで開幕した。オープニングイベントに登壇した甘利明・前衆院議員(半導体戦略推進議員連盟名誉会長)は、「先端半導体の生産を台湾積体電路製造(TSMC)1社が担うことが世界最大のリスクだ。ラピダスの意義はそこにある」と語った。
TSMCは技術で先行し、米エヌビディアをはじめAI半導体など先端品の受託生産をほぼ独占している。甘利氏は、「台湾海峡が封鎖されれば、先端半導体のほとんどは供給が止まる。リーマン・ショックの何倍もの衝撃がある」と指摘した。こうした国際情勢の変化に合せて、ラピダスへの期待が高まっている。
エヌビディアも最近、ラピダスへの発注に言及している。「TSMC1社への発注はリスクを伴う」と同社ジェンスン・フアン社長が発言するほどになってきた。この裏には、ラピダスの技術水準がTSMCを凌駕する段階まで発展している事実を把握している結果であろう。
前記の「セミコン・ジャパン」オープニングイベントでは、光電融合の実用化に向けた発言もあった。NTT会長の澤田氏は「(極めて薄い膜で構成した光源を利用する)メンブレン型の半導体レーザーの実装で、ラピダスと共同研究したい」と意欲を示している。ラピダスの業界地位は確実に上がっている。