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ラピダスが日本半導体を再び世界一へ導く当然の理由。2ナノ半導体“新技術”で成功、協力企業も続々=勝又壽良

1)北海道千歳市には、千歳空港があるので半導体製品の搬出には極めて便利である。素材の輸送では、企業が特別対応する準備に入っている。人材供給ソースは、北海道大学と道内4つの高専が存在している。すでに、4校共通の半導体教育カリキュラムも編成されている。北大は、台湾の半導体専門の陽明交通大学と学術提携を結んだ。国内では、九州大学・東北大学も陽明交通大学と提携関係を結んでおり、国内3大学は学術連携を強化する。

水質では、排水にPFAS(有機フッ素化合物)が含まれるのが問題だ。ラピダスは、千歳市と排水水質検査協定を結んだ。TSMC熊本工場もPFAS問題で、地元と協定し監視体制を強化している。千歳は、水量豊富である。

2)提携先がよくない、という意味は何を指すだろうか。考えつくのは、米IBMであろう。IBMは、パソコンも手放しており一見、「負け組」に映るのかも知れない。IBMは現在、製造部門を持たないが、AI(人工知能)、クラウドコンピューティング、データ分析などの先進技術を活用して、製造業のデジタルトランスフォーメーションを支援している。豊富な資金力で、戦略的な分野で買収を積極的に行っている。「負け組」どころか、トップランナーである。

3)戦略がはっきりしない、とはラピダスの本質理解が欠けている。あくまでも、最先端半導体「2ナノ」メーカーである。ただ、日本の半導体が「40ナノ」までしか生産していない限界を補うべく、海外の有力半導体研究機関と研究面で提携している。これが、ラピダスをして研究機関かメーカーか見間違う状態を生み出したのかも知れない。ラピダスは、こういう研究機関と幅広い提携によって、世界の半導体研究成果を一手に吸収し、わずか創業2年余で世界レベルの実績を上げられたのだ。この努力は、称賛されるべきであろう。

現に、「前工程」と「後工程」の全自動化を世界初で実現している。後工程は、多くの労働力を必要とする分野である。そこを自動化したことによって、製品歩留まり率は飛躍的に高まるはずだ。半導体企業の収益性は、この製品歩留まり率の如何で決まる。サムスンが、「5ナノ」半導体で20~30%の歩留まり率に止まり、大赤字に陥っているほどだ。後発のラピダスが、全自動化に成功したことは、原理的に言えば「歩留まり率100%」という信じがたい成果に達することになる。

ラピダス世界一技術へ

ここからは若干、技術的な話になる。これを押さえることによって、ラピダスがなぜ先行半導体企業TSMCやサムスンよりも、技術的優位な立場になったのか。その意味が、具体的に納得できるであろう。

IBMは、2ナノ製造プロセスのGAA技術の開発に成功し、特許を取得している。だが、実用化する技術を持っていない。そこで、日本へ製品化への話を持ち込み、ラピダスが創業された。ラピダスは、前述の通りIBMのGAA技術の製品化に成功した。IBMは現在、製造部門を持たない企業である。技術開発をするが、製品化技術を持たないのだ。これは、技術開発力と製品開発力が別個の存在であることを示している。この両者の一体化によって、初めて製品が世の中へ送り出される。

世界の半導体ファンドリー事業(受託生産)で、6割のシェアを持つ台湾TSMCと1割シェアの韓国サムスンは、それぞれ独自のGAA特許を持っている。だが、製品化する新技術を確立していないのだ。そこでやむをえず、従来のFinFET技術を採用している。ラピダスが、確立したSLR技術とはどれだけの差があるのかみておきたい。

  1. FinFETは、「2ナノ」半導体以下で高性能の実現が難しい
  2. FinFETは、低い消費電力で作動しないので、モバイルデバイスやIoTデバイスなどの省電力が困難である
  3. FinFETは、製造プロセスが比較的単純なので、複雑な構造の半導体製造に向かない

上記の3点をみれば、FinFETが今後のさらなる微細化する最先端半導体製造で多くの限界点を抱えている。ラピダスは、この限界をSLR技術で見事に突破したのだ。

ここで、半導体技術開発の歴史的エピソードを取り上げたい。

Next: 追い風が吹くラピダス。背景には「TSMC」一強への危機感も

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