基軸通貨国にとって必要なことの1つは、経常赤字を維持してその国の通貨を世界に供給し続けることです。これは一般の国からすると難しいことで、例えばアルゼンチンが長年経常収支の赤字を続ければ、対外債務の問題が経済危機をもたらしかねなくなります。
従って、経済学では経常赤字国は引き締め政策により需要を削減し、輸入を減らして貿易赤字、経常赤字を改善するよう求めます。
ところが、米国のような基軸通貨国の場合は、ドルを世界に潤沢に供給するために、あえて経常収支の赤字を続ける必要があります。経常収支を黒字にしてしまうと、ドルの供給が減り、他の国ではドルを使えなくなるリスクがあるためです。
ところが、トランプ大統領はその基本認識がなく、貿易赤字を許さない立場にあり、赤字削減が実現すると、世界に対するドルの供給が細ってしまいます。これは基軸通貨国としての責務を果たさないことになります。基軸通貨国の米国は、経常収支が赤字でもドルで資金調達ができ、対外債務の問題は生じないのですが、赤字を「負け」と考えるために、これを維持しようとしません。
つまり、トランプ大統領はドル基軸通貨を守ると言いながら、自らその基本前提を崩そうとしていることに気づいていません。
鎖国主義はドル利用の低下を
もう1つは、相互関税の例のように、世界を敵に回すような政策をとり、米国の「鎖国」を進める政策をとっていますが、その帰結は米国やドルの信認が崩れます。
大恐慌後にも米国が「スムート・ホーレイ関税法」によって輸入品の関税を大幅に引き上げましたが、これがその後の世界のブロック化を招き、第二次世界大戦につながる結果となりました。
今回の相互関税は、とりあえず報復しない国に対しては90日間の停止期間を設け、その間に各国と交渉することになりましたが、少なくとも中国とは関税引き上げ合戦がエスカレートし、互いに100%を超える関税で貿易にブレーキをかけてしまいました。米国はWTOを否定し、各国との協調政策、自由貿易を否定しています。
これで世界の国がドルを決済通貨として利用し続けられるのでしょうか。
米国の信認低下はドル離れ要因
ドルが信認を失うとドル離れが進んで、基軸通貨の維持が難しくなります。
その点で気になる動きがあります。つまり最近の米国債売り、長期金利の上昇です。米国の投資家が関税でインフレが高まることを懸念して国債を売っているならまだましですが、最近では中国など海外勢が米国債売りを仕掛けている節があり、ベッセント財務長官も警戒を強めています。






