中国の農畜産物の禁輸
さらに最近パニックを加速させているのが、中国による米産農畜産物の禁輸である。その中でももっとも大きな影響を与えているのが、中国による牛肉の禁輸だ。中国は、米国内にある屠殺場の中国への牛肉輸出のライセンスの更新を拒否し、実質的に米国産牛肉を禁輸した。損失は250億ドル相当になる。アメリカが生産する牛肉の約3分の1が中国に輸出されている。その影響はあまりに大きい。
アメリカの牛肉産業は裾野の広い産業である。牧場、屠殺場、食肉加工場、飼料産業、そして輸送を担当する運輸など多くの産業分野がかかわっている。中国の米国産牛肉の禁輸で、これらの産業がすべて痛手を受ける。
それだけではない。中国は米国産牛肉の禁輸後、オーストラリア産の牛肉への輸入を急増し、乗り換えている。この状況では、たとえディールが成立してトランプ政権が中国への高関税の適用を行わなかったとしても、中国市場はオーストラリアに奪われ、回復することはまずない。
トランプ関税の適用の影響は計り知れない。中国による米農畜産物の禁輸はこれから拡大するはずだ。食肉産業の破綻懸念が高まり、米国内で一種のパニックを引き起こしている。やはり「TikTok」や「X」などのSNSでは、トランプへの恨みと叫び、そして救済を求める声であふれている。
大きくは下がっていないトランプの支持率
このようなパニックはほんの一例だ。トランプが就任してからというもの、「政府効率化省(DODGE)」による連邦政府の部局の閉鎖と大リストラをはじめとして、あまりに過激な改革がすさまじい勢いで実行されている。いまアメリカは、パニックと怒りの波が起こっていると言ってもよい。
特に農畜産分野はトランプの強力な支持基盤の一つである。高関税政策を継続するとトランプは支持を失い、来年の中間選挙では大きく敗北する可能性がある。そのためトランプ政権は、高関税をはじめこれまでの過激な政策の大幅な変更を行う可能性が高いと報道されている。筆者自身もそのように考えていた。
しかし、実際のトランプの支持率を見ると、下がってはいるものの、これだけのパニックから予想されるほど大きくは下落していないことに驚く。以下が最新の支持率だ。
・支持:46.5ポイント
・不支持:50.6ポイント
・トランプに好意的:45.3ポイント
・トランプに反感: 50.8ポイント
就任当初の支持率は51ポイント程度、不支持率は44ポイント程度だった。いま支持率はたしかに下落しているものの、米国内のパニックと不安感の大きさから想像できるほどには下がってはいない。下がり渋っているというのが現状だ。
ということではトランプは、これまでの過激な政策を大きく変更することなく継続する可能性も十分に考えられる。もちろん、国内の反応を意識して多くの微調整は行うだろう。トランプ政権は現実的でフレックシブルだ。しかし、現在の強硬な政策の基本スタンスを変えることはないと思われる。







