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なぜトランプ支持は激減しない?強制送還、経済不安、中国禁輸でも「動じない層」の正体=高島康司

岩盤支持層「福音派」のマインドセット

しかしそれにしても、なぜ支持率の下落が弱いのだろか?

経済的な合理性から見るなら、多くのアメリカ国民がトランプに反対し、離反していてもおかしくない状況だ。それなのに、そうしたことにはなっていない。

おそらくトランプが一定の支持を確実に維持できている理由は、トランプの岩盤支持層である「福音派」の存在にある。彼らは、どれほどトランプの政策が米経済に痛手となっても、経済的な合理性でトランプを判断していないのだ。どういうことだろうか?

現在アメリカには、総人口の20%を越える1億人弱の「福音派」がいる。20年ほど前には8,000万人程度と考えられていたので、「福音派」の数は確実に増えているようだ。この増加の背景になったのは、行き過ぎたグローバリゼーションであった。

90年代の後半から現代まで約30年間続いたグローバリゼーションが結局残したものは、持続的な経済成長の中で耐え難い水準まで拡大した格差と、製造業の労働者層を中心とした中間層の没落と貧困化、そして政治経済のあらゆる側面が超富裕層のエリートによって支配されるという状況だった。もちろんこれは、アメリカだけの状況ではなく、多くの先進国で同時に現れていた。

しかし、アメリカに特徴的なことは、没落した中間層の受け皿になったのが、キリスト教原理主義の「福音派」であった。そのため、「福音派」の世界観と価値観が、行き過ぎたグローバリゼーションに対するアメリカ的な反応を形成することになった。「福音派」は、過度の物質主義を引き起こしたグローバリゼーションは、終末期に入ったことを示す兆候であり、神の裁きによってアメリカは破壊される運命にあると信じた。この破壊こそ、終末期の予言の成就となる。

なぜならそれは、アメリカという国家の「回心」を求める契機であるからだ。「回心」とは、聖書の教えに基づいてこれまでの行いを悔い改めることである。アメリカが「回心」によってこれまでの罪を認め、神との契約に目覚めるならば、アメリカは聖書に則った本来あるべき神権国家として再建される。

この国家としての「回心」のプロセスは、個人と同期している。グローバリゼーションの陰で人生の失敗と貧困に苦しんだ個人は、その苦しみの原因を神の契約をないがしろにしてきた自分自身の自堕落な生活の結果であると「福音派」は教えた。個人が「回心」をしてこれまでの罪を認めてこれまでの生き方を捨て、神との契約に基づく倫理的な生き方を回復すると、物質的な富と幸福で豊かな人生を取り戻すことができるという。

このように見ると、国家と個人は「回心」で同期しており、罪に満ちた現代のアメリカの破壊と神権国家への再生は、神との契約を忘れた罪に満ちた人生を放棄し、生まれ変わって神に祝福された生き方を手にする個人の再生が同時に進む過程である。つまりこれは、アメリカの破壊と神権国家への再建という政治的なプロセスと、個人の贖罪と生まれ変わりという内面的な変容のプロセスが同時平行で進む運動である。これは、アメリカを再生させる政治的プロセスへの参加が、個人の覚醒の前提となるという関係になっている。

アメリカの変革に向かう政治運動への参加が、個人の再生につながるというわけだ。この覚醒と救いの熱狂が燎原の火のように広まった結果が、トランプの圧倒的な勝利なのであった。

これが「福音派」のマインドセットだ。

Next: アメリカの崩壊は織り込み済み?トランプを支持し続ける理由は…

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