中国は、日本技術に立遅れていないとPRに懸命である。だが、化学的精錬法では、そういう誇大報道すらできない状態にある。中国の胸中を推し量れば、日本へ技術を教えて欲しいと言いたいところであろう。日本の新幹線技術の導入申入れを行った時のように、「最後の10%」技術の導入だ。現実は、「日本を散々威圧してきた手前、いまさら『技術を教えてくれ』とは言えない」立場に追い込まれている。
日本方式が、世界標準になれば、中国は鉱物覇権を一夜にして失う。これが、分かっていても、どうすることもできないほど、日中関係は悪化している。中国は、日本へなんら「反撃できない」苦悩を抱えているのだ。
日本方式が国際標準化されると、中国の物理的精錬法によるレアアースでは世界市場へ「参加不可能」になる。今年8月稼働の重要鉱物特恵市場の基準は、次のようになっている。低CO2、廃液管理、トレーサビリティ、高純度、透明性などがルール化されている。これらは、中国の乾式精錬が絶対に満たせない基準である。
中でもポイントは、トレーサビリティである。一般的には、「製造データが完全に記録され、いつでも製造過程を遡って検証できる状態」を指す。日本の化学的精錬法(湿式精錬)が要求するトレーサビリティは、一般的な製造業のそれよりはるかに高度で、桁違いに厳密である。
日本式・湿式精錬におけるトレーサビリティの本質は、次の通りだ。
1)原料の出所(鉱山→運搬→前処理)
2)精錬プロセスの全データ(湿式精錬の核心)
3)分析データ
4)環境データ(CO2・廃液・廃棄物)
5)出荷・物流データ(ロット管理)
こうして、最終製品(EV・モーター)まで遡れるようになっている。
中国、29年を境に劣勢へ
日本の化学的精錬法におけるトレーサビリティとは、製造過程をいつでも科学的に再現できる証拠体系であり、これがそのまま国際標準(ISO)になりうることだ。これこそ、中国の乾式精錬が国際市場から排除される最大の理由である。
具体的には、次のような弱点を抱えている。
1)乾式精錬は温度・反応条件が粗く、データ化できない。
2)廃棄物が多く、環境データを出せない。
3)不純物管理が甘く、分析基準に適合しない。
中国方式は、こうして「トレーサビリティの壁」を越えられないのだ。日本方式は、「トレーサビリティを基準にする側」に回った。敷衍すればこうなる。日本は、テストする側であるが、中国は逆にテストされる側に座らされる羽目になった。この逆転こそ、歴史的な選手交代を意味するのだ。
日本の化学的精錬法が、国際標準になると中国は「基準外」製品という「烙印」を押されて門前払い扱いになる。中国は基準上、国際市場に入れないという危機を迎えるのだ。フィリピンにおける、「パックス・シリカ」が稼働して製品を送り出す29年以降、中国は「孤立した鉱物大国」になるに危険性が高まるであろう。中国製鉱産物を使用した工業製品は、西側諸国への輸出が不可能になる事態が起こる。この問題は、改めて取り上げる予定だ。中国製造業の危機が始まる。中国の凋落に結び付くのである。
こうなると、世界レアアース市場は二極構造になる。Aブロック(国際標準側)の「日米欧+ASEAN+インド=日本方式の湿式精錬」と、Bブロック(中国側)の「中国+ロシア+一部アフリカ=乾式精錬+低環境基準」である。中国は、「価格は安いが信用されない鉱物」の側に押し込まれる。中国のレアアース覇権は、こうして脆くも崩れるであろう。これは、中国にとって最も屈辱的で、最も避けたかった事態のはずだ。日本敵視政策が招いた「痛々しい」ケースの一つになる。
ここで、今後の世界レアアース精錬シェアの大雑把な予測をしておきたい。
時点 中国 日・米・EU ASEAN(比・豪など) その他
2025年頃 85% 5% 5% 5%
2029年頃 55% 20% 20% 5%
日・米・EUとASEAN(比・豪など)が、合計で40%を占めるようになると、中国とかなり拮抗する。これは、「中国レアアース帝国」の崩壊を意味するであろう。中国が、レアアースを武器にした「レアアース外交」が不可能になるのだ。
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経済記者30年と大学教授17年の経験を生かして、内外の経済問題について取り上げる。2010年からブログを毎日、書き続けてきた。この間、著書も数冊出版している。今後も、この姿勢を続ける。