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中国経済に「バンクデミック」直撃、途上国への“ばら撒き”インフラ融資が不良債権化=勝又壽良

一帯一路政策で中国の政治的・経済的影響力の拡大を狙う習近平は、「実弾」の代わりに「資金」をまき散らしている。1兆2,000億ドルもの巨額資金である。この資金が中国経済の命取りになってきた。米銀行の金融不安から始まった「バンクデミック」が直撃することになる。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)

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プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

不良債権化する「一帯一路事業」

中国は、習近平氏が国家主席に就任以来、「強国路線」を歩んできた。対外的には、一帯一路政策によって、中国の政治的・経済的な影響力を一気に拡大するという路線だ。

この裏には、膨大な資金投入を必要とした。IMF(国際通貨基金)や世界銀行という国際機関は、発展途上国向け融資では、厳しい条件がつく。中国の「一帯一路」は、融資の金利は高いものの簡単に融資し、中国企業に建設を担わせる方式を取ってきた。

これが今、世界的金融不安の中で、不良債権化の恐れが強まっている。100%回収できなければ、中国の負担になって跳ね返るのだ。中国の復旦大学グリーン金融開発センターの「2022一帯一路投資報告書」によると、中国は2013年から22年までに、一帯一路事業に総額9,620億ドルも投じた。

一方、2008年から21年にかけて発展途上国22カ国に総額2,400億ドルの救済資金支援を行ったことが、3月28日に公表された世界銀行などのリポートで明らかになった。「一帯一路」のインフラ建設に充てた融資の返済に苦しむ国が増えたためで近年、救済支援金額が急増している。

救援支援融資の2,400億ドルが、一帯一路事業の総額9,620億ドルに含まれているのかどうかは不明である。仮に別とすれば、中国は一帯一路で実に1兆2,020億ドルもの融資をしたことになる。インフラ投資であるから、長期返済のはずだ。

この膨大な融資の返済が滞れば、中国経済にとって重大な事態になろう。

「バンクデミック」登場

冒頭から、中国が一帯一路事業で金融面から大きな障害に直面している現実を取り上げた。さらに、ここへ来て事態を悪化させる世界的な金融不安が生まれている。米国から始まった銀行危機の恐怖が、スイスを経て、ドイツ最大手の投資銀行であるドイツ銀行まで襲ってきたのだ。ドイツの首相まで乗り出し、問題はないと鎮火に乗り出したほどである。

特別な危険な兆候がない大型銀行までが、こうしたターゲットになったのは、金融市場での恐怖が強いことを示している。この恐怖が、伝染病のように広がるという意味で、「バンクデミック」(銀行とパンデミックの合成語)という新造語が登場しているという。過去に問題を起こした銀行は、市場の不安心理でバンクデミックに襲われているのだ。

1つ気がかりなのは、米国で2008年9月のリーマンショックが突然、起こったのでないという点だ。その前に、サブプライム住宅ローン危機が発生していたのである。金融危機への「火種」は、ずっと潜伏していたわけで、それを誰も認識しなかったのである。

こういう前例から見ると、今回の一件は「バンクデミック」として警戒すべきであろう。

米国の金融混乱は今後、世界的なリセッション・リスクを高めるとの警戒感が出ている。当面のリスクは、米銀が資産内容の健全性を確保し預金者を安心させるために、米国の家計や企業に対する融資を抑制すると見られる。それが、需要減となって世界中へ波及することだ。

世界の貿易と金融システムは、米ドルによって支えられている。米国が金融引き締め状態になると、融資が抑制されるので、借り入れコストが上がる。その結果、株式やその他の資産の相場が下がる形で、他国の経済へ影響を与えるのだ。

Next: 「バンクデミック」の餌食になるのは、中国から支援を受けた途上国…

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