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モノ、ヒト、技術は国家の存亡に関わる!歴史から学ぶ経済の三要素

発展途上国とは国民経済の「供給能力」が不足しているため、基本的に経済はインフレ基調(かつ貿易赤字)で推移する。すなわち、インフレギャップが拡大してくのである。

発展途上国の国民は、モノ不足、サービス不足に悩む。理由は、国内の供給能力が弱すぎ、国民が必要とするモノやサービスを生産することが不可能であるためだ。

経済力とは、「国民の需要を満たす供給能力」そのものだ。そして、国民経済の供給能力は、モノ、ヒト、カネの三つから成り立っている。

モノとは、インフラストラクチャー、工場、店舗、設備などの固定資産になる。また、資源、資材なども生産に必要なモノだ。

ヒトとは、もちろん生産者、あるいは「人材」である。どれだけ「モノ」が豊富にあったとしても、生産者がいなければ生産は行われない。

そして、技術とは、上記「モノ」と「ヒト」を組み合わせることで、効率的な生産を可能とする「手段」「方法」「コツ」の集合体になる。モノとヒトのみで、つまりは「人力」で生産する場合、すぐに限界に達する。ヒト(生産者)一人当たりの生産を増やし、生産性を向上させるためには、技術開発が欠かせない。

東インド会社に支配される前、インドは世界最大の「綿織物」生産大国だった。インドの綿布は古からの主要輸出品で、特に欧州で爆発的な人気を呼んだのである。

当時のインドの綿布産業では、それほど高度な技術は使われておらず、いわゆる「手工業」的だった。インドは機械による大量生産ではなく、主に「ヒト」に依存した綿布産業を実現していたのである。

インド産綿布は、特にカリカットから輸出されたものが良質とされた。そのため、インド産綿布のことを積出港カリカットにちなんで「キャラコ」と呼ぶ。

実は、このキャラコが「産業革命」という技術開発投資を促すことになった。

インド産キャラコは、欧州に綿織物の「市場」を創り出した。イギリスの企業家たちは「綿織物の自給」を目論み、自国でも拡大中の「綿織物の市場」におけるビジネス拡大を図った。また、イギリス政府も国内綿織物産業の勃興を企て、インド産キャラコの流入を食い止めようとする。

イギリス政府は1700年、染色キャラコの輸入を法律で禁止したのである。つまりは「保護主義」で外国製品を締め出し、自国産業を成長させようとしたのだ。

元々、イギリスには羊毛工業が存在したのだが、インドから輸入された安価なキャラコは、肌触り、吸湿性、染色の容易さという品質で、英国産羊毛製品を圧倒。しかも、価格が安価であった。

1773年。イギリスのジョン・ケイが織機の改良という「技術開発」を実施し、産業革命の口火を切った。その後、ジェニー紡績機、水力紡績機、ミュール紡績機と、綿織物の生産性を高める技術開発が続く。そして、1785年にエドモンド・カートライトが蒸気機関を動力とした力織機を発明。イギリスの綿織物の「生産性」は一気に向上した。

イギリスは「蒸気機関」という新技術により、生産性でインド産綿布を圧倒することとなった。機械で大量生産されるイギリス産綿製品に、インドの手工業によるキャラコは全く太刀打ちできなかった。

技術開発で生産性向上に成功したイギリスは、インドに「自由貿易」を迫り、自国産の綿織物を大量に輸出していった。

1757年。イギリスはプラッシーの戦いに勝利し、インド亜大陸からフランス勢力を追放し、ベンガル地方の覇権を握る。1818年には、マラーター同盟(ベンガル帝国の残存勢力)を滅ぼし、インドを植民地化した。

イギリスは、インドを英国産綿織物の原料供給地と化し、さらに自国の綿製品を売り込む市場と位置づけたのである。インドの木綿はイギリスに送られ、蒸気機関で良質な綿製品へと姿を変える。

イギリスで生産された大量の綿製品は、かつてとは逆にインドへと流入していった。結果、インドの紡績産業は文字通り「壊滅的」な打撃を被ることになってしまう。

イギリスは「技術開発」と帝国主義により、世界最大だったインド木綿産業を滅ぼしてしまったのだ。木綿産業における技術開発(=産業革命)ほど、世界の歴史に決定的な影響を与えてしまったケースは、他に例がない。

モノ、ヒト、技術という「経済の三要素」は、冗談でもなく国家の存亡に関わるのだ。(ちなみに、モノ、ヒト、カネは「経営」の三要素)

上記「三要素」は、基本的には掛け算であり、足し算ではない。モノ、ヒト、技術のいずれかが不足しただけで、十分な生産が行われず、国民の需要は満たされてないことになってしまう。

それでは、モノ、ヒト、技術という経済の三要素は、いかなる手段で向上させることができるだろうか。イギリスの産業革命の歴史を知れば、誰にでも推測がつくと思う。

イギリスが「技術」という三要素のひとつを向上させたのは、ジョン・ケイやジェームス・ハーブリーブス、リチャード・アークライト、サミュエル・クロンプトン、エドモント・カートライトらによる織機や紡績機の性能改良のための「技術開発」だ。より厳密に書くと、「技術開発投資」である。

実は、別に技術に限らず、経済の三要素を向上させる手段は「投資」なのである。というより、投資以外の手段で経済の三要素を強化することは不可能といっても過言ではない。

『週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』 Vol.308より一部抜粋

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