fbpx

選挙用の経済対策すら的外れ。値上げに苦しむ国民を前に「デフレ脱却」を掲げる石破政権=斎藤満

衆議院解散に伴い、各党の選挙公約が注目を集めていますが、経済政策の多くが現実に即していない印象を与えています。特に自民党は「デフレ脱却」を未だ掲げ、インフレに苦しむ国民の生活感覚からずれているとの批判が高まっています。本記事では、物価上昇と実質賃金の課題、そして最低賃金引き上げのリスクについて考察し、企業優先の政策がもたらす影響を掘り下げます。
(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)

【関連】「貯蓄から投資へ」の残酷さ。政府は国民を切り捨てる意図で投資を奨めている=鈴木傾城

※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2024年10月18日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

ピントがずれるデフレからの脱却

衆議院が解散され、実質選挙戦が始まって1週間あまりが経ちましたが、各党が選挙公約で掲げる経済政策については的外れなものが多い印象です。

特に政権与党の自民党の対策案が、石破色のない、これまでのアベノミクスの延長線上にある岸田政策を引き継いだもので、「党内融和」を重んじた結果、石破色を打ち出せないばかりか、肝心な国民の生活不安からまた目がそれてしまいました。

まず自民党の経済政策の根幹をなす認識がいまだに「デフレからの脱却」となっていることです。これはかつて安倍政権が掲げた目標で、その後は菅政権、岸田政権へと受け継がれましたが、2022年には政府日銀が掲げる2%の物価目標を超過達成し、その後も目標を上回る高いインフレが続いています。

にもかかわらず石破政権は、選挙公約の中で経済政策の基本を「デフレ脱却」と掲げました。しかし、これは国民の感覚と大きくかけ離れたもので、国民のための政策とはとても思えません。

実際、内閣府が昨年調査した国民が政府に求めの政策の第1位は「物価対策」で、これに次いで「経済対策」「社会保障対策」となっています。

石破総理は低所得者への給付金や電気ガス代の補助で乗り切ろうとしていますが、今のインフレは一過性のものではありません。しかもその資金負担は税金で、国民が負担します。

「物価高」に政府と国民との間に大きな乖離

そもそも物価高に対する政府と国民との間に大きなギャップがあります。

日銀が物価の尺度にしている「生鮮食品を除く総合」はこの8月で前年比2.8%の上昇となっています。政策活動費と旧文通費を合わせると年間2,000万円以上もらっている政治家からすれば、年に2.8%物価が上がっても目くじらを立てるようなものではないのかもしれません。

しかし、国民の認識はまったく異なります。そもそも物価上昇率が2.8%というほど低いと思っていません。この統計発表自体が恣意的に低く見せています。生鮮食品は変動が大きいという理由で除かれていますが、異常気象の影響で生鮮野菜も魚介類も、このところ恒常的に高い状態が続いています。しかも国民はこれなしには暮らせません。これを含んだ8月の物価は3.0%の上昇です。

さらにこれには実体のない「帰属家賃」が含まれていて、これを除いた実際の物価上昇は3.5%となっています。これが実質賃金や実質消費の計算に使われています。

政府日銀はこれを物価の尺度にすべきで、この実態と発表値の2.8%にはそもそも乖離があります。

そして、この実態的な3.5%上昇も「実態」を表していない可能性があります。スーパーで昨年5キロ1,980円の値がついていたコメが今年は2,990円に5割高となり、パン専門店のA社のカレーパンは以前1個240円でしたが今は340円、食パンは2年前に1斤280円だったのが昨年は340円に、今年は460円に高騰しています。

スーパーで売られているリンゴの例えば「シナノスイート」は昨年1個198円でしたが今年は2個パックで599円、1個あたり299円で5割高です。そして10月から郵便料金がハガキで63円から85円、封書が84円から110円に3割を超える大幅値上げとなりました。

物価統計が示す「年2%や3%の上昇」ではありません。

現に、日銀が3か月に1回調査している「生活意識に関するアンケート」調査では、直近の9月調査(10月10日公表)で、この1年間の物価上昇率を平均で14.5%としており、今後1年間では10%を予想、5年後の上昇率も7.9%の上昇を予想しています。国民の実感は2桁の高インフレで、しかも高い上昇が長い間続くことを不安に思っています。

少なくとも現在をデフレと感じ、「デフレ脱却」を望んでいる国民はいません。物価目標をゼロ以上に引き下げると言っているのは立憲民主党のみです。

Next: 的外れな選挙用経済対策……政治家は何を見ているのか?

1 2 3
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー