それでは、3年後に完成、トータルで300億円の売上になる工事で、原価の見積りが120億だとした場合、どのように処理することになるでしょうか。
1年目の工事の進捗度合いは30%、2年目はさらに50%(トータルで80%)、3年目に完成するという場合、ざっくりと以下のように売上や利益を計算します。
1年目は売上90億、原価36億、粗利64億。
2年目は売上150億、原価60億、粗利90億。
3年目は売上60億、原価24億、粗利36億。
※実際の実務上は、こんなに単純な話になりませんが。
なお、お金のやりとりはまったく別問題ですので注意しなくてはなりません。
長期の大規模な工事の場合、工事が始まる前に前金の授受があり、中間金、最終代金、と何度かに分けて売上代金の授受をするのが一般的です。原価の支払いも、進捗状況と一致するわけではありません。
工事進行基準は、企業の状況を表現するには合理的ですが、大きな問題点もあります。その見積りが間違っていたら、利益も間違えてしまう、ということです。お金のやり取りとも別問題になりますから、間違えていたとしても終わってみるまで分からない可能性もあります。
さらに踏み込んで言えば、原価の見積り方法いかんで、利益をどうとでもできる可能性だってあるということ。
どうやら、東芝は、意図的に、原価の見積もりを少額にし、利益を水増ししていたようなのです。
もちろん、意図的に操作していたとすれば、最終的にはどこかで歪みが生じますよ。いくら見積もりを少額にしたところで、実際にはそれ以上の支払いが必要になりますからね。
でも、想像してみてください。
もしも自分が契約担当だった工事がフタを開けてみたら赤字案件だったとしたら。もしも自分が社長だったときに、赤字の工事が積み重なって業績が悪化するとしたら。
ごまかせるものならごまかしたい、という気持ちになってしまうかもしれません。
担当者であれば、できるだけ問題を先延ばしにして、最終的に赤字になる分の原価は他の黒字工事につけかえる、というごまかし方もできます。
社長であれば、数年後には任期が終わるかもしれませんから、そこまでごまかすことができればいいと考えるかもしれません。
ただ、意図的に見積りと利益を操作していたのであれば、それは立派な粉飾決算。
当初は、「単なる見積りのミス」であった可能性を考慮して、「不適切会計」という言葉を使っていたようですが、しっかりと内容の調査をして欲しいと思います。
それにしても、現代の財務諸表には、見積りの要素が多すぎる気がします。引当金はもちろんのこと、退職給付に関する数値、資産除去債務など、見積り金額だらけです。
企業は、本当に、それぞれの企業なりの正しい数値を積み上げることができているものなのでしょうか。
決算書にはそういう数値が含まれているということを、覚えておいてくださいね。
『平林亮子の晴れ時々株主総会』vol.26(2015年7月20日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
『平林亮子の晴れ時々株主総会』
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ベンチャー企業のコンサルティングを行うかたわら、講演活動やマスコミなどでも活躍。毎月どこかの上場企業の株主総会に個人株主として参加中。
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