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チェーン店だらけの日本は不幸まっしぐら。「町の食堂」が消えた4つの事情=冷泉彰彦

日本の外食産業の問題点をするどく指摘している米国在住の作家・冷泉彰彦さん。冷泉さんは今回、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』で、古き良き個人経営の飲食店が事業として成り立っているアメリカの現状を紹介した上で、日本から「自営の食堂」が消えてしまった理由と、激増するチェーン店の現場に希望がまったく見えなくなってしまった原因を記しています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2019年5月14日号を一部抜粋・再構成したものです。興味を持たれた方は、ぜひこの機会に『今月すべて無料のお試し購読』をどうぞ。

プロフィール:冷泉彰彦(れいぜい あきひこ)
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒業。福武書店(現、ベネッセ・コーポレーション)、ベルリッツ・インターナショナル社、米国ニュージャージー州立ラトガース大学講師を経て、現在はプリンストン日本語学校高等部主任。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。

なぜ、日本の外食産業には希望がないのか?解決困難な4つの背景

ソルトレイク・シティの美味しいダイナー

大陸横断鉄道の150周年記念式典、そして史上最強の蒸気機関車「UP4000型」復活運転の取材でユタ州に行ってきました。ユタ州といっても、今回は州都のソルトレイク・シティーとその北部にある州第3の都市オグデンが中心だったのですが、驚いたのは「のレベルが高いということです。

そうは言っても、完全な山国ですから、そんなに各国料理が豊富なわけではありません。日本食も数はないし、イタリアン、中華、インドといった東海岸では多数派の食べ物も少数でした。レベルが高かったのは、アメリカ料理でいわゆるダイナー」です。

何だかんだ言って、短期間に5店を制覇したのですが、どの店も料理やメニューに工夫があり、サービスもアットホームな感じで大満足という感じでした。そのくせ、価格の方は東海岸と比べると2割から3割は安いのです。

メニューだけをお話しするとファーストフードやファミレスっぽいわけで、健康にも悪そうだし、クオリティ的にもB級グルメ的な印象になります。ですが、ちょっと違うのです。ダイナーというのは、完全に個人店です。一軒一軒が独立しており、ちょっと成功したからといって2号店を出したりはしません

とにかくファミリービジネスであり、大きくなると人手は地元の人を雇ってしのぐことはあっても、基本は自営というわけです。何が良いのかというと、外食というのは経営のコツがわかれば、固定費と変動費をうまくマネージすることができ、そうすると3割とか4割の粗利益を稼げるのです。

例えば、今回訪問したソルトレイク・シティーから、5分ほど東の山中に入ったところにある “Ruth’s”(「ルースおばさんのダイナー」という感じです)という店は、創業が1930年ですから、もう90年近く営業していて、大変な人気店になっています。アメリカ版の「ぐるナビ」とでも言っていい “yelp”でも高評価になっていますから、経営は安定していると思われます

この種のダイナーは全国にあるわけですが、東海岸の場合は、どういうわけかギリシャ系の人たちが市場を相当に抑えていたりします。ワシントン州などコーヒー文化の異常に発達したところでは、名前はカフェとなって、内装やメニューが「オシャレ」になる感じもあります。東からちょっと内陸に入ったペンシルベニアあたりだと、当たり外れが結構あったりします。

その一方で、このユタ州の場合は、とにかく素朴だが、レベルが高く本当にビックリしました。価格で言えば、この「ルースおばさん」は一番高い方で、もっと安い店もたくさんありました。

よく考えると、日本でも昔はこういう「自営の食堂」というのは、どこにでもあったように思います。

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