fbpx

クルーグマンと浜田宏一氏の誤り~『2020年 世界経済の勝者と敗者』を読む=吉田繁治

【所得が上がらない中で物価が上がるのは、スタグフレーションである】

世帯が可処分所得以上にお金を使っていて、貯蓄ができなくなっているとき、店頭の物価が上がればどうなるか。貯蓄を崩さない限り、買うことができる商品の量が減るでしょう。

物価が上がる中で消費が減るのは、「スタグフレーション」です。わが国のように、所得が増えていないとき、あるいは世帯の総所得が上表のように減っている中で物価が上がれば、需要が増える好況どころか、消費は減って不況になります。

【家計消費の減少】

事実、2014年4月に消費税が上がった後の家計消費は、減っています。最も近い2015年12月の、5300万世帯の家計消費は、物価上昇を引いた後の実質(=買った商品の数量)で、4.4%も減っています。

異次元緩和開始後、2年9か月が過ぎましたが、ボーナスを含む12月の世帯所得は、名目で2.7%、物価上昇を引いた実質で2.9%減っています。以上が「現実」です。
家計調査(二人以上の世帯)平成28年(2016年)1月分速報 (平成28年3月1日公表) – 総務省統計局

【家計貯蓄率に関する若干専門的なこと】

世帯の消費には、帰属家賃が含まれています。持ち家の世帯も、借家の世帯と同じように家賃を払ったと仮想したものです。2014年度で28兆円です(消費額のうち10%)。実際には家賃としては払われていないので「貯蓄」であると主張する人がいます。

しかし持ち家世帯の多くは、住宅ローンを支払っています。住宅ローンの支払いは負債の返済なので、国民経済計算では貯蓄勘定です。実際の消費支出ではありませんが、ローン支払いが貯蓄なので、多くが相殺されます。帰属家賃28兆円が含まれているから、実際の貯蓄はもっと多いという論は、成立しません。

【結論】

「物価が下がるから、人々がお金にしがみつき、消費を増やさない」という浜田氏とリフレ派(クルーグマンを含む)の立論は、2000年代になって世帯所得が減り、貯蓄率が大きく減っている日本では誤りです。
(注)リフレ派のエコノミストがこの誤りを無視したのは、不思議です

誤った事実認識が前提のリフレ論は、結論まで間違えてしまっているのです。

クルーグマンは専門的に、物価が下がっている日本では、消費や投資より、現金と預金を好む「流動性選好」が生じていると言っています。お金を貯め込むことを専門語で言ったのが「流動性選好」です。

これをもとに、現金を貯め込んで使わないという『流動性の罠』を説き、日本に、円を増刷してインフレを起こす異次元緩和を奨めたのがクルーグマンです。インフレになれば、人々はお金を多く使うという前提からです。消費が増えれば好況になる。好況になれば、企業の利益が増えて賃金も上がる、賃金が上がれば消費が増える好循環になるというのが、日常語で言ったリフレ理論です。

ところが上表が示すように、日本の世帯では、「流動性選好」は生じていません。逆に、所得が減ったため消費を増やすことができなくなっているのです。所得が減ったため、消費も貯蓄も増えないという状況が生じているのです。
(注)260万社の企業合計では、中小企業ではなく、大手企業を中心に、設備投資が減って貯蓄を増やす流動性選好が生じていますが、世帯では生じていません

日本のデフレ対策は、日銀がマネー発行量を増やすことでなく、「賃金を年5%上げる」ということを、リフレ策にしなければならなかったのです。

【賃金上昇奨励法の奨め】

無謀なことを承知で言いますが、世界に類のない賃金上昇奨励法を制定することで、これが可能になります。一定率以上の賃金を上げた企業には、大きく減税をするのです。

1980年代までの賃金は、年齢加算を含むと、5%~7%は上がっていました。企業では、毎年5%程度の賃金を上げることは、事実上、義務化していたのです。今からでも、遅くはない。賃金上昇の奨励政策を実行することです。ただし企業では、生産性上昇が年3%は必要です。

企業が賃金を上げれば、売る商品の価格を上げねばならない。商品、ホテル代、理容費、医療費、交通費、通信費の価格が3%上がっても、1年に5%賃金が増えれば、消費(=企業の売上)は増えるからです。

21世紀になって、わが国世帯の、平均所得が減っていることを見るにつけて、忍びなくなります。ほぼ20%の世帯は所得が増えていますが、80%の世帯は減っているのです。お金にしがみつくのではなく、しがみつく所得が減っているのです。

Next: 2.インフレターゲットの本来の意味と「3つのインフレ」を理解する

1 2 3 4
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー