思考実験──片づけるべき用事とは
『ジョブ理論』によれば、以下の問いに答えることで用事をより具体化できるようになる、としています。
1.その人がなし遂げようとしている進歩は何か。求めている進歩の機能的、社会的、感情的側面はどのようなものか。
2.苦心している状況は何か。誰がいつどこで何をしているときか。
3.進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か。
4.不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか。ジョブを完全には片づけてくれない商品やサービスに頼っていないか。複数の商品を継ぎはぎして一時しのぎの解決策をつくっていないか。
5.その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義は何か、また、その解決策のために引き換えにしてもいいと思うものは何か。
出典:『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(第2章 プロダクトではなく、プログレス)
用事の特定
イノベーションを起こすための最初のステップは、ある状況下で顧客がなし遂げようとしている進歩を特定することです。そして、その進歩には機能的、感情的、社会的側面があり、どれが重視されるかは文脈によって異なってきます。また、用事を特定することにより、真の競合相手もみえてきます。では、同社の場合はどうなるのでしょうか。
今回は、同社が課題としてあげる「加工受託処理能力の向上」を取り上げます。同社はそれを次のように認識しています。
(前略)当社は、加工受託件数の増加にあわせた処理能力の向上のため、加工業務に使用する培地や機器等の改良・増設などによる作業工程の効率化や、専門的な知識・技能を有する優秀な人材の採用と育成を進めております。さらに、加工業務の一部を外部事業者に再委託することを検討しております。
なお、同社が行なっている、再生医療に用いる細胞の加工作業は次の通りです。
当社の行う脂肪由来幹細胞の加工作業に必要な脂肪組織は約20mlと少量であり、抽出及び培養後は凍結処理により長期保存が可能であります。したがって、医療機関は本サービスを当社に委託することにより、少量の脂肪組織の採取で当該患者に対して複数回の脂肪由来幹細胞の患部への投与が可能となるため、医療機関及び患者の負担が軽減されます。
こういった状況で顧客(医療機関)がなし遂げようとする進歩の機能的側面は「再生医療に用いる細胞をつくる」ということ。意思決定者であれば、感情的側面として「品質」はもちろんのこと「患者の負担」「時間の節約」「労力の軽減」「面倒の回避」といったことを重視するでしょう。
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