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新規上場したセルソースの課題は、再生医療に用いる細胞加工の専門人材の確保

体験の構築

用事が特定できたら、次になすべきことは、顧客がなし遂げようとしている進歩に伴う体験を構築することです。製品・サービスの購入時や使用時におけるすぐれた体験が、顧客がどの製品やサービスを選ぶかの基準になるからです。では、同社はどのような体験を構築すればいいのでしょうか。

加工作業の障害となり得るのは、一つには、作業を受け持つ担当者それぞれに“クセ”があるため、一律的な「加工業務に使用する培地や機器等の改良・増設などによる作業工程の効率化」ではかえって作業効率が落ちる可能性があることです。

こうした障害が取り除かれれば、顧客は「患者への負担が少なく、高品質の細胞を低コストで安定的に調達する」というすぐれた体験ができるようになるでしょう。

プロセスの統合

最後は、顧客がなし遂げようとしている進歩のまわりに社内プロセスを統合し、顧客に対して彼らが求める体験を提供します。そうすることにより、プロセスは摸倣が困難になり競争優位をもたらすのです。

加工作業の改善に一つのヒントを与えてくれるのが、ホギメディカルの取り組みです。『医療マーケティングの革新』は次のように指摘しています。

(前略)一人ひとりの医師のニーズに合わせて、手術用部材をカスタマイズし、滅菌処理をしたうえでパッケージとして販売する。これにより、長い時間を要する手術用部材の準備がほとんど不要となり、手術の直前にパッケージを開き、部材を並べるだけでよい。結果として、手術用部材の在庫ゼロの圧縮が実現するとともに、準備や後片付けに伴う看護師の業務負荷が大幅に軽減された。

これに倣えば、同社は一人ひとりの作業担当者のニーズに合わせて、培地や機器等をカスタマイズし、可能なところはパッケージとして用意しておけばいいということになります。これはまた、「加工業務の一部を外部事業者に再委託する」場合にも有効です。

では、同社がこうした取り組みを行うのであれば業績の評価基準をどうすればいいのでしょうか。クリステンセン教授たちは次のように指摘しています。

ジョブ理論は、プロセスを何に合わせて最適化するのを変えるだけでなく、成功の尺度も変える。業績の評価基準を、内部の財務実績から、外部的に重要な顧客ベネフィットの測定基準へと移す。

・顧客の行動について集めたデータは、客観的に見えてもじつは偏っていることが多い。データはとくに、ビッグ・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを買うとき)だけを重視し、リトル・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを実際に使うとき)を無視している。ビッグ・ハイアが、顧客のジョブをプロダクトが解決したことを意味する場合もあるが、本当に解決したかどうかは、リトル・ハイアが一貫して繰り返されることによってしか確認できない。

この指摘を踏まえるのであれば、同社はリトル・ハイア──加工処理件数──を業績の評価基準とするのが得策だということになります。

【参考文献】

・クレイトン・M・クリステンセン他[著]、依田光江[訳]『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
・クレイトン M.クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)
・クレイトン・M・クリステンセン『医療イノベーションの本質─破壊的創造の処方箋』(碩学舎ビジネス双書)
・恩藏 直人/編著 岩下 仁/編著『医療マーケティングの革新』(有斐閣)
・有価証券届出書(新規公開時)


本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2019年12月17日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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イノベーションの理論でみる業界の変化』(2019年12月17日号)より一部抜粋

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クリステンセン教授たちが練り上げた「片づけるべき用事」の理論は、これまで不可能とされてきたイノベーションの予測を可能にし、その効果はアマゾンのベゾスらによっても確認されているといいます。3年目になる2018年からは内容を刷新し、従来のMBAツールとは一線を画すこの優れた理論を使い、各業界におけるイノベーションの可能性を探ります。これはイノベーションを生み出すための「思考実験」にもなります。なお各号はそれぞれ単独で完結(モジュール化)しているので、関心がある業界(企業)を取り上げた号を購読していただけます。

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