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30年ぶり「賃上げ」機運も、給料以上に物価は上がる。働けど庶民の生活はジリ貧へ=斎藤満

日本の賃金が30年間上がっていないという事実に、政府・産業界ともに賃上げを真剣に考え始めました。しかし皮肉にも世界のインフレは賃上げ程度では乗り越えられないほど進んでおり、国民をさらなる困窮へと追い込んでいきます。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

【関連】なぜ日本人の賃金は上がらないのか?本当に低かった生産性、「手取り13万」がトレンド入りする現実=原彰宏

※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2021年12月22日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

賃上げに税制の追い風

OECD(経済協力開発機構)のデータで、日本はこの30年間賃金がまったく上がらない「異常な国」だとの印象を与えました。これが国民ばかりか、産業界や政治家にも大きなショックを与えたようです。

安倍政権が提示した、大企業を儲けさせれば労働者におこぼれが回ってくる、という「トリクル・ダウン」の理論は破綻し、安倍政権自体が産業界に賃上げを求めてきました。それでも賃金引き上げは限定的で、OECDのデータのような結果になってしまっています。

この事実から、岸田政権は従来のアベノミクスとは一線を画した「新しい資本主義」を掲げ、その柱の1つに、賃上げを据えました。特にコロナ禍で大変な思いをした看護・介護・保育関係者の賃金は3%の引き上げを実現したいとしています。

そして賃上げは本来民間部門が決めることで、政府の「要望」にも限度があるため、「税制・財政」を通じて賃上げを後押しする方針を示しました。

最低賃金の引き上げが命取りになりかねない中小・零細企業に対しては最低賃金引上げ補助金を出す考えを示し、一般企業については、賃金の増加率に応じて、法人税を最大30%、中小企業では最大40%、控除する税制を検討しています。

労働組合は賃上げに消極的?

従来の政府が要望しても実現しなかった問題を、何とか財政支援を通じて実現しようとしています。

もっとも、法人税を納めていない企業が半分以上あり、彼らには税控除が通じない面があります。政府は企業の「内部留保」積み立て優先の姿勢や、企業の「自社株買い」の姿勢にも批判をするようになりました。企業は株主だけのものではない、ということを訴えています。

そこで財界とも改めて協議していますが、財界からも岸田政権の「新しい資本主義」の考えに同調する声が出るようになっています。少なくとも経団連の十倉会長は、この趣旨に賛同を示し、赤字企業まで含めた一律賃上げは難しいとしても、利益を上げている企業には積極的に賃上げを求める姿勢を見せました。

こうした政府や財界の動きについてゆけないのか、労働組合をまとめる「連合」は、コロナ禍での雇用確保に目が向かい、賃上げについては7年連続の2%目標を掲げています。

政府が3%の賃上げを目指すといっている中で、組合が2%の賃上げ目標を掲げていては、いかにも「御用組合」との批判をまぬかれません。今回は積極的に賃上げを求められる環境と言えます。

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