戦争が続いているが、日本ではウクライナ側に偏向した報道が多い。西側諸国の経済制裁でロシアのGDPは−12%に落ち込むとも世界の主要メディアは喧伝しているが、本当にそうだろうか。他方、ロシアの財政は安定しており、制裁に参加しないアジア圏との貿易で経済制裁は効き目がないとの報道もある。実態はどちらなのかを検証したい。(『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』高島康司)
※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2022年5月13日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
経済制裁はロシアにダメージを与えているのか?
周知のように、ロシアのウクライナ軍事侵攻以後、欧米各国による最大限の対ロシア制裁が継続している。
5月9日、G7はオンライン首脳会議を開催し、軍事侵攻を続けるロシアへの圧力を強化するため、ロシアからの原油の輸入を段階的、もしくは即時禁止することで一致した。岸田総理大臣も日本としてロシア産の原油を原則禁輸する方針を表明した。
また、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長も、ウクライナに侵攻したロシアへの追加制裁案を発表し、ロシア産原油の輸入を年内に禁止する方針を打ち出している。ロシア産依存度の高いハンガリ-など一部加盟国が反対しているので、メンバー国の全会一致の原則がEUでは実現が難しいものの、全会一致原則の改正までも視野に入れ、ロシア産原油の禁輸を実行するつもりだ。
現在、ロシアには次の5つの分野の経済制裁が課せられている。
1. 「SWIFT」からのロシアの銀行の排除
2. 原油と天然ガスのエネルギ-輸入禁止
3. ロシア企業や要人の資産凍結
4. ITを中心としたハイテク製品の禁輸
5. ロシアへの新規投資の停止
制裁項目は実に6,000を越える。これは、イランや北朝鮮に次ぐ制裁の厳しさだ。
この制裁がロシア経済にどの程度の影響を与えるのか、議論されている。
ロシアのGDP「12%縮小」との予測
この制裁によって、ロシア経済は大打撃を受ける…という観測が主要メディアでは一般的だ。
いまのところ、戦争が始まった当初は記録的な安値まで急落したルーブルも、2020年初頭以来の高値に回復したし、店にはまだ食料があふれており、原油と天然ガスの販売による収入は引き続き流れ込んでいる。
しかし制裁の影響が徐々に出てくるため、非常に厳しい時期に入る可能性が高いと見られている。
ロシア政府の財務省も、悲観的な経済予測を支持している。国内総生産(GDP)は今年12%縮小し、経済省が予想する8%の減少を上回る可能性があるという。
12%の縮小は、ソビエトは崩壊した時代以来の縮小で、ソビエトが崩壊し、資本主義になだれ込んだ1990年代初頭に見られた混乱に匹敵する経済的苦痛をもたらすだろうとするエコノミストも多い。
この主なマイナス要因は、原油の禁輸、EUによるロシア産天然ガスの放棄、それに外国企業の離脱の増加だとしている。この結果ロシア経済は、多くのマイナス要因を抱えながら2023年に向けてさらに悪化するとしている。