■業績動向
1. 2025年9月期業績動向
富士製薬工業<4554>の2025年9月期連結業績は、売上高・営業利益ともに2ケタ増収増益となり、好調な推移を示した。売上高は前期比12.0%増の51,677百万円、営業利益は同28.6%増の4,999百万円を計上した。経常利益は44,459百万円(同0.3%増)とほぼ横ばいで推移した一方、親会社株主に帰属する当期純利益は3,000百万円(同51.2%減)と減益となった。増収要因としては、主力の女性医療分野における新薬や主力製品の販売が堅調に推移したことに加え、バイオシミラー事業の拡大や田辺三菱製薬(株)(現 田辺ファーマ(株))から承継した製品群の寄与が挙げられる。特に、2024年12月に発売した新薬アリッサ(R)配合錠や、天然型黄体ホルモン製剤『エフメノ(R)カプセル100mg』、経口避妊薬『ファボワール(R)錠』などが業績をけん引した。また、2024年5月に上市した乾癬治療薬『ウステキヌマブBS皮下注45mg「F」』が寄与し、バイオシミラー事業の成長が加速した。加えて、富山工場及びタイ子会社OLIC (Thailand)によるグローバルCMO事業も計画通り進捗し、全体の売上増に貢献した。
一方、営業利益の増加は売上高の拡大に加え、製品ミックスにより売上総利益額・利益率ともに改善したことが寄与した。研究開発費は期ずれや開発中ジェネリック品の効率的な進捗により抑制された。ただし、販管費では人件費や減価償却費の増加が見られた。経常利益は為替評価損等の影響で横ばいとなったが、最終利益は前期にあった投資有価証券売却益など一過性要因の剥落により減益となった。
2. 領域別業績動向
同社は医薬品事業の単一セグメントであるが、「女性医療」「バイオシミラー」「グローバルCMO」の3事業領域を展開している。
(1) 女性医療
女性医療については、売上高22,372百万円(前期比5.7%増)となった。更年期障害治療薬エフメノ(R)カプセルが前期比35.5%増と大幅に伸長し、女性医療事業をけん引した。国内のHRT(ホルモン補充療法)服薬率は依然として低水準であるが、徐々に理解度が向上し市場が拡大している。経口避妊薬ファボワール(R)錠、ラベルフィーユ(R)錠」もオンライン診療市場での採用拡大が寄与した。新製品アリッサ(R)配合錠は発売初年度で売上高512百万円となり、2026年9月期第一四半期の処方制限解除を控えて来期以降の成長加速が期待される。
(2) バイオシミラー
バイオシミラーについては、売上高1,973百万円(前期比7.4%増)となった。乾癬治療薬ウステキヌマブBSが販売初年度ながら223百万円を計上し、好調に推移した。G-CSF製剤フィルグラスチムBSは薬価改定の影響により微減となったが、2025年11月に製造販売承認を取得したアフリベルセプトBS、ゴリムマブBS、デノスマブBSの3製品により、来期以降の成長ドライバーが揃う。3製品の先行品市場規模は合計1,500百万円と大きく、国内での販売拡大余地は極めて高い。
またウステキヌマブBSは現在、先行品市場の約10%の市場である乾癬の適応のみでの販売だが、中期経営計画期間中にはクローン病、潰瘍性大腸炎の適応追加を見込んでおり、大きな成長が期待される。
(3) グローバルCMO
グローバルCMOについては、売上高8,342百万円(前期比4.9%増)となった。富山工場及びOLIC (Thailand)による受託生産が安定推移した。国内受託は新規案件増により13.9%増、海外受託は一部製品の生産調整で3.4%減となったものの、総じて堅調に推移している。ホルモン剤・注射剤といった高付加価値製剤の比率を高め、国際的な製造ネットワークの強化を進めている。
3. 財務状況と経営指標
2025年9月期末の同社の総資産は93,405百万円(前期末比3,404百万円増)となり、資産規模は拡大した。内訳では、売上増に伴う運転資金需要の増加や新製品投入に伴う費用計上を背景に、流動資産は47,913百万円(同5,445百万円増)に増加した。一方、固定資産は45,491百万円(同2,040百万円減)と減少し、減価償却の進行や設備投資の一服が影響した。現金及び預金は7,245百万円(同2,660百万円増)となったが、これは営業活動によるキャッシュ創出に加え、有利子負債の増加による資金調達の影響が大きい。
負債合計は46,496百万円(同2,059百万円増)となり、このうち有利子負債は26,233百万円(同2,250百万円増)に拡大した。新製品開発や研究開発体制の強化に伴う投資資金の確保が主因である。一方、純資産は46,908百万円(同1,345百万円増)となり、自己資本比率は50.2%(前期は50.6%)と引き続き高水準を維持した。
収益性面では、売上高営業利益率が9.7%(前期は8.4%)へ上昇し、製品ミックスの改善とコスト効率化の成果が見られた。現預金回転期間は1.68ヶ月(前期は1.19ヶ月)と長期化したが、これは資金調達と営業キャッシュ・フローの増加を反映したものと見られる。総じて、同社は積極的な成長投資を進めながらも健全な財務基盤を維持しており、今後の女性医療及びバイオシミラー事業の拡大に向けた資金体制は良好である。
■今後の見通し
増収増益を継続、株主還元も強化し増配へ
1. 2026年9月期業績見通し
2026年9月期の同社は、前期に続き売上高・営業利益ともに2ケタ成長を見込んでいる。売上高は57,490百万円(前期比5,813百万円増、11.2%増)、営業利益は5,520百万円(同530百万円増、10.6%増)を計画し、2期連続で過去最高を更新する見通しである。売上総利益率は41.2%(前期は40.2%)へ上昇する見込みで、製品ミックスの改善と高付加価値品の構成比拡大が寄与する。経常利益は5,240百万円(同17.5%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は3,810百万円(同27.0%増)を予想している。
2. 領域別業績見通し
女性医療では、同社の収益基盤を支える柱として引き続き堅調な成長を見込む。売上高は25,280百万円(前期比13.0%増)を計画しており、新製品『アリッサ(R)配合錠』が投薬制限解除後に本格拡販となり、3,100百万円規模まで成長する見通しである。更年期障害治療薬『エフメノ(R)カプセル』の継続的な成長により、女性のライフステージ全体を支える医薬品群としての地位を強化する。
バイオシミラーは、前期比88.5%増の3,720百万円を計画しており、複数の新製品が薬価収載・販売開始となる見通しである。既存品の安定供給に加え、複数の新製品群が収益成長をけん引し、事業規模拡大に寄与する。
グローバルCMOは8,500百万円(同1.9%増)と堅調を維持する予想である。富山工場及びOLIC (Thailand)を活用した受託生産が安定して推移し、収益の下支えとなる。
これら3領域のうち、女性医療とバイオシミラーが全体売上の約5割を占める構造へ移行しつつあり、中期経営計画で掲げる「売上高800億円・ROE10%」の実現に向けた基盤を固めている。2026年9月期も設備投資を3,471百万円(同45.1%増)、研究開発費を4,600百万円(同37.6%増)と積極化し、次世代バイオシミラー及び女性医療での新薬開発に向けた布石を打つ計画である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 中西 哲)
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