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「大口顧客への手土産」IPO公開価格の低い値付けは独禁法違反か?元証券会社社長が見た日本市場の歪み=澤田聖陽

IPO株は大口顧客へのお土産

筆者は証券会社に在籍していた際に、企業のIPOに関わっとこともあるし、投資家への金融商品の販売にも関わったことがある。

結論から言うと、証券会社内でIPO株は大口顧客へのお土産になっており、儲かるIPO株を割り当てることで他の金融商品を買ってもらうという営業が横行している。

大口顧客に儲かるIPO株を割り当てるためには、初値で大きく儲かるような公開価格の設定でなくてはならない。

よって主幹事証券はIPOディスカウントという名目で「初値で儲かる価格」に公開価格を導こうとする。

また初値が公開価格割れした場合、「IPOの失敗例」としてマスコミに取り上げられ、自社の主幹事業務に影響が出るため、保守的な公開価格で決めておきたいという思惑もあるだろう。

そもそもIPO業務は証券会社の業務の中では、単独では儲からない業務とされている(それでも資本市場を育てる証券会社としての業務としては、IPO業務は崇高な業務なのだが)。

IPO部門単独では収益としては厳しいため、どうしても営業部門などの意向が影響しやすい。

営業部門とは対外的にはチャイニーズウォールがあるとされているが、実際には営業などの収益の柱となっている部門の圧力を受けやすい。

発行体企業にも問題がある

証券会社の問題点ばかり書いてきたが、発行体企業側にも問題がある。

発行体企業はできるだけ高い株価で公開価格が決まった方が、調達金額が多くなりメリットがあるわけだが、一方で初値が公開価格割れすれば主幹事証券にクレームを入れるだろう。

IPO株はマーケットの状況に影響を受けやすく、株価はマーケットが決めるという結論しかないのだが、企業側からすると公開価格割れした企業というイメージは悪く、できるだけ避けたい。

結果として、主幹事証券は発行体企業からのできる限り多く資金調達したい(できるだけ高い株価で公開価格を決めたい)という意向と、でも絶対に初値は公開価格割れさせないでほしいという意向の両極端の意向を受け、板挟みになる。

また投資家も、本来は自己責任のはずではあるが、証券会社から割り当てられたIPO株の初値が公開価格割れした場合、証券会社にクレームを言いたくなるものである。

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