fbpx

「大口顧客への手土産」IPO公開価格の低い値付けは独禁法違反か?元証券会社社長が見た日本市場の歪み=澤田聖陽

証券会社が相手にする2つの顧客

このような時系列の株価の動きがあるため、証券会社側としては公取委の指摘に対しての反発は強いようだ。

初値が不当に吊り上げられているだけであり、証券会社が決定した公開価格は適正であったと言いたいところだろう。

そもそも証券会社は資金調達側の企業と投資する側の投資家という、大きく分けて2つの顧客を相手に商売している。

この2つのビジネスは、仕組み上利益相反関係が発生する。

IPOに関して言えば、企業側に有利になるように株を高い価格で発行すれば、投資家にとっては不利になるし、投資家にとって有利になるように株を安い価格で発行すれば、企業側にとっては資金調達額が少なくなり、不利になる。

よって公開価格は恣意的ではなく、公正な根拠に基づいて算出される必要がある。

証券会社の90%以上が「IPOディスカウント」を実施

IPO時の公募の手続きとしては、ブックビルディング方式と入札方式が選択できるが、現在はすべてのIPOが「ブックビルディング方式」によって行われている。

ブックビルディング方式とは、株価算定能力が高いと思われる機関投資家などの意見をもとに仮条件を決定して、その仮条件を投資家に提示し、投資家が需要申告することによって、公開価格を決定する制度である。

公開価格の決定までを時系列に説明していくと、取引所からの上場承認日に「想定発行価格」が開示される。

想定発行価格は、類似上場企業の株価などを参考に主幹事証券会社が決定する。

その後、「仮条件」といって、ブックビルディングを行うための値幅が開示される(仮条件は概ね想定発行価格に近い価格帯で決定される)。

この仮条件の範囲内で投資家からの需要を集う。

投資家の需要の結果をもとに、主幹事証券会社と発行体企業が話し合って公開価格を決めるという流れである。

公取委で指摘されているのは、想定発行価格決定時にIPOディスカウントという名目で主幹事証券会社が発行体企業に対して、適正価格よりも低い想定発行価格を実質的に強いているという点である。

IPOディスカウントはずっと以前からIPO株の評価で使われてきた慣習だが、実はディスカウントする明確な理由はない。

しかし今回の公取委の調査では、証券会社の90%以上がIPO株の価値算定についてIPOディスカウントを実施しているという結果が出ている。

Next: IPO株は大口顧客へのお土産?公募割れしたくない発行体企業の問題も

1 2 3 4
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー