証券会社内でIPO株は大口顧客へのお土産になっており、儲かるIPO株を割り当てることで他の金融商品を買ってもらうという営業が横行している。大口顧客に儲かるIPO株を割り当てるためには、初値で大きく儲かるような公開価格の設定でなくてはならない。よって主幹事証券はIPOディスカウントという名目で「初値で儲かる価格」に公開価格を導こうとする。この状況に今回、公正取引委員会が「待った」をかけた。今後のIPO公募価格に影響を及ぼしそうだ。(『元証券会社社長・澤田聖陽が教える「投資に勝つニュースの読み方」』澤田聖陽)
※本記事は有料メルマガ『元証券会社社長・澤田聖陽が教える「投資に勝つニュースの読み方」』2022年2月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
投資に勝つにはまず第一に情報分析。「投資に勝つ」という視点から日常のニュースをどのように読むべきかを、この記事の著者で、元証券会社社長で現在も投資の現場の最前線にいる澤田聖陽氏が解説します。視聴方法はこちらから。
「IPOディスカウント」は独禁法違反か
公正取引委員会(公取委)は28日、新規株式公開(IPO)時の公開価格の値付けの関する報告書をまとめた。
「新規株式公開(IPO)における公開価格設定プロセス等に関する実態把握について」という題名で、WEBでも報告書を閲覧することができる。
IPO時に行われている「IPOディスカウント」という商習慣があり、主幹事証券という強い立場から適正でない価格を上場する企業に押し付けていることは、独禁法の「優越的地位の濫用」に該当する恐れがあるというのが、この報告書の中での最も大きな指摘である。
このような指摘が行われる背景には、公開価格から初値の値上がり幅が他国に比較して著しく大きいという事実がある。
内閣官房の情報をもとに日本経済新聞がまとめたデータによると、日本の公開価格に対する初値の値上がり率は平均44.8%であった。
英国では15.8%、米国では17.2%であり、日本が著しく公開価格と初値の乖離が大きい。
公取委は、主幹事がIPOディスカウントという名目で、不当に安い価格を企業に押しつけているのではないかと考えているようである(優越的地位の濫用にあたるおそれがあるという指摘で、現時点では独禁法に明確に違反する事例はなかったとのことではあるが)。
諸外国とは比較できない日本のIPO
ただし、諸外国とは単純に比べられない要素もある。
日本のIPOは資金調達額が極めて小さく、IPO時の資金調達の規模では米国と比べると1/10程度となっている。
資金調達規模が小さければ、市場での流通株が少なくなるので当然、値動きは荒くなる。
またIPOするようなグロース企業へ投資する投資家の厚みも米国とは雲泥の差がある。
日本のIPOは初値天井のような状態になってしまうケースが多く、上場後6ヵ月以上経過した時点では公募価格に近い水準まで落ちてきている企業が多いように思う。
2021年のIPO125社(TOKYO PRO Marketを除く)の初値の公開価格に対する騰落率の中央値は37.9%のプラス、各社の2021年12月30日終値の初値に対しての騰落率の中央値は23.8%のマイナスとなっている。