ロシアの反撃を最小限に抑えながら実施される欧米の経済制裁
こうした懸念があるので、ロシアへの経済制裁は、ロシアからの想定される報復のリスクをできるだけ抑えるようなものでなくてはならない。つまり、圧力を最大にしながらロシアの反撃を最小限に抑えて、中長期的にはロシア経済に大きな痛手を与えるという内容である。
これは欧米諸国にとってはジレンマであり、外科手術のような精密さを要求する。いまのところ、この制裁の内容は発表されていないが、CIA系のシンクタンク、「ストラトフォー(いまはRAINEに名称変更)」などが入手したリーク情報や分析から、その内容が見えてくる。
まとめると次のようになる。
<1. ロシアの金融部門に対する制裁を拡大>
アメリカ、イギリス、EUは、より多くのロシアの金融機関をブラックリストに登録し、ロシアがルーブルを米ドル、ユーロ、英ポンドなどの通貨に交換する能力を制限するような規制を課す。いま米議会で提案されているある法案は、ロシアの家計、年金基金、労働者にとって必要不可欠な「VTB」や「スベルバンク」などのロシアの3大銀行を制裁する。
<2. ロシアのエネルギー部門を制裁>
アメリカとEUは、ロシアの新規石油・ガスプロジェクト、特に欧米企業が参加している技術的に困難なプロジェクトへの融資、技術移転、その他の関連活動を制限する。ロシアの新しいパイプライン・プロジェクトと、将来の潜在的なパイプライン・プロジェクトに対して広範な制裁を課すこともできる。
<3. ロシアへのハイテク製品輸出を広範に規制>
ロシアは経済規模が大きいにもかかわらず、ハイエンドの電子機器、バイオテクノロジー、半導体、グリーンテクノロジーなど、今後数十年で戦略的に重要になる製品を生産・開発する広範なハイテク部門が存在しない。
外国製チップへのアクセスを制限する制裁措置は、ロシアの軍事・政府機関向けに最も普及している2つのプロセッサ、「エルブルース」と「バイカル」にも影響を与える。
<4. ロシア政府の要人や「オリガルヒ」への制裁>
クレムリンに近いと見られているロシアのオリガルヒ、プーチン大統領をはじめとするロシアの主要幹部に対する制裁。
2014年のロシアによるクリミア併合への対応の一環として、ロシアの財閥、「オリガルヒ」への制裁が実施されている。しかしすでに、「オリガルヒ」の多くがすでに何らかの形で標的になっているため、制裁には制約がある。
また、主要な「オリガルヒ」に対する制裁は、世界経済全体に大きな影響を及ぼす可能性がある。アルミニウム大手を率いる、オレグ・デリパスカとルサルを標的とした米財務省の制裁により、2018年にアルミニウム価格が20%急騰した。その結果、その後1年も経たないうちにアメリカは最終的に同社への制裁を緩和する合意に達したが、それまでアルミニウム価格は上昇したままだった。
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