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日本で食糧危機は起こるか?世界で始まった穀物の奪い合い、日本人が飢える最悪シナリオ=高島康司

台湾有事と物流の寸断

このように見ると、日本の現状では食料の国際価格の高騰による物価上昇にも、また、物流の寸断による供給の絶対的な不足にも基本的には対応は可能である。

もちろん、日本国内では十分に生産できない食料の価格は上昇するだろうし、また輸入している食料を国内で生産するとコスト高になる可能性はある。

だがそれでも、日本の潜在的な食料生産力が「FAO」が指摘する通りであれば、近い将来日本が食糧危機に陥ることはまずないと考えたほうがよい。

しかしながら、食糧危機が起こり得る事態がひとつだけ考えられる。それは、物流の寸断のスピードがあまりに速い場合だ。食糧の供給量が不足する可能性が将来あるとき、政府は減反政策の停止、休耕地の耕作地への転化、未使用地の農地への転換、フードロスを削減するシステムの導入などの施策の実施で対応するだろう。

だが、こうした対応が実際に成果が出るにはそれなりの時間がかかる。食糧の物流の寸断の影響が徐々に現れるのであれば、政府や企業も対応が可能だ。そうではなく、物流が一気に遮断されると、政府や企業の対応体制が整うまでの間、食糧危機は起こり得るはずだ。

では、食糧の物流が一気に遮断されるというのはどういう状況だろうか?

それは、台湾有事で南シナ海と東シナ海の情勢が緊張し、食糧の輸入ルートであるシーレーンが使えなくなった場合だ。日本の農産物輸入先国を見ると、第1位はアメリカで24.5%、次に、中国12.4%、 オーストラリア6.8%、タイ6.8%、カナダ6.2%、ブラジル5.1%となっており、この上位6か国で農産物輸入額の6割以上を占めている。台湾有事でシーレーンが遮断されると、これらの農産物の輸入が途絶するのだ。

どのくらいの食糧が不足するのか?

もしシーレーンの遮断で6割を越える農産物の輸入が途絶してしまうような状況が一気に起こってしまうと、食糧危機は発生する可能性は高くなる。最終的には政府や企業は対応するだろうが、食料が不足する状態が一定期間続くことはあり得ることだ。

では、そうした状況になったとき、どのくらいの食料が不足するのだろうか?

これを試算している専門家がいる。農林水産省出身で、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁氏だ。山下氏の試算を見て見よう。

山下氏によると、シーレーンの寸断による食糧危機に近い状態を日本は過去にも経験しているという。それは、終戦直後の食料難である。このとき、コメは大凶作だった。当時の農林省が管轄する東京の深川倉庫には、都民の3日分のコメしかなかった。輸入で入ってくるコメは実質的にゼロである。戦前は、朝鮮や台湾という植民地からのコメの輸入があったが、それもなくなった。シーレーンの寸断のよる輸入途絶と同じ状況だ。

1946年当時の日本の人口は7,000万人だったが、そのうち1,000万人が餓死するといわれた。コメ、麦、イモなど多くの食料は政府の管理下に置かれ、国民は配給通帳と引き換えに指定された小売業者から買う配給制度が導入された。

もちろん、シーレーンが台湾有事で全面的に遮断された場合は、小麦や肉類も輸入できない。輸入穀物に依存する畜産はほぼ壊滅する。最低限のカロリーを摂取できる食生活、つまり米とイモ主体の終戦後の食生活に戻るしかなくなる可能性が高い。

1946年当時のコメの1人1日当たりの配給は、標準的な人で2合3勺だった。年間では125キロである。一方、2020年の1人1年当たりのコメ消費量は50.7キロである。しかし、肉、牛乳、卵などの輸入や生産が壊滅すると、副食からカロリーを摂取することができなくなるので、コメやイモの消費を増やすことで不足するカロリーを補わなければならなくなる。終戦直後と同じようなコメやイモの消費量になる可能性が高い。

そして、山下氏の試算によると、現在、1億2,500万人に2合3勺のコメを配給するためには、1,400万トンから1,500万トンの供給が必要となる。しかし、減反で毎年コメの生産を減少させているため、2022年産の主食用米の供給量はは675万トン以下になるようだ。ということでは、もし近い将来、シーレーンの遮断による輸入途絶という危機が起きると、家畜用エサのコメや政府備蓄米を含めて、必要量の半分をわずかに上回る800万トン程度のコメしか供給できない状況になる。

もちろんいま、配給制度は実施されていない。食糧価格は市場で決定される。その結果、このような状況下では食糧価格は高騰する。すでに日本では社会的格差が拡大しているので、所得の少ない人々は食糧の確保にも事欠く事態になる。むろん政府は減反政策の停止や休耕地の耕作、さまざまな土地の農地への転換、また代替作物の模索などを進め対応するだろうが、結果が出てくるまでは1年以上はかかる。

コメも麦も年一作であり、すぐには作れないのだ。山下氏が言うには、最悪のタイミングは、田植えが終了した6月に危機が起きることだという。当年産のコメの生産は増やせない。種もみを工面して翌年産のコメを増産しようとしても、収穫は翌年の9月まで待たなければならないのだという。16カ月間を必要量の半分のコメでしのがなければならないのだ。

また、このようなシミュレーションの結果は、遮断されるシーレーンの規模によっても異なるはずだ。有事が台湾海峡周辺に限定され、それも短期間で危機が終結する場合と、戦争が南シナ海と東シナ海に及び、さらに日本の周辺海域にまで拡大し、さらに長期化する場合とでは、食糧危機の規模も期間も大きく異なってくる。

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