「ドレイゼン・レポート」の分析
このように、ロシア軍は東部ドンバス地方でゆっくりと確実に支配地域を拡大している。一方ウクライナ軍は兵力の損傷が激しく、たとえNATO諸国から兵器の支援があったとしても、十分に戦うだけの兵力がない状況だ。しかし、そうした状況にもかかわらず、米情報機関はむしろこれから崩壊するのは、ウクライナの4倍の人口を持つロシアだと言っており、現状を認識できていない。
筆者が情報源としているどのサイトも、この「アジア・タイムス」の戦況分析と同じ内容を報告している。これが現状であろう。ウクライナ軍のちょっとした反撃をウクライナの勝利が近いとして喧伝する日本や欧米の主要メディアとは、大きな違いだ。
しかし、東部ルガンスクの人口15万人の都市、セベロドネツクの攻略にロシア軍は明らかに時間がかかっている。これを見ると、ロシア軍がウクライナ軍の攻勢に手を焼いているように見える。ということでは、ウクライナ軍にはまだ十分な反撃能力があり、NATO諸国から重火器の支援が行われると、戦況全体が逆転する可能性があるようにも見える。実際はどうなのだろうか?なぜロシア軍は支配地域を拡大しつつも、動きが緩慢なのだろうか?
こうした問いに「ドライゼン・レポート」は、ロシア軍の動きが緩慢な理由は、ウクライナ軍の効果的な反撃ではなく、ロシア軍の都合だとして次の2点を指摘する。
<(1)都市全体の破壊の回避>
ロシア軍は、都市全体の破壊を極力回避しようとしている。その理由は、インフラがすべて破壊され、飢えた住民が大勢いる都市を再建するためにはすさまじいコストがかかる。都市の再建コストを勘案し、民間のインフラを維持し、さらに民間人の死傷者を回避しながら攻撃している。
<(2)NATO軍の侵攻に備えた兵力温存>
ロシアは、最高の兵器の多くと利用可能な兵力の大部分を前線から遠ざけている。これは、NATO軍が直接関与した場合に備える戦略的予備軍である。セベロドネツクのロシア軍は、いま最小の兵力で戦っている。
この「ドレイゼン・レポート」の分析は、筆者が参照している他のサイトでも基本的に同じ見解だ。おそらくこれが、ロシア軍の動きが緩慢な理由なのだろう。ウクライナ軍の反撃に手を焼いているわけではなさそうだ。
ウクライナ軍の状況
では一方のウクライナはどのような戦略なのだろうか?「ドレイゼン・レポート」を始めとした信頼できる分析者によると、ウクライナ政府の首脳部は、基本的に次のような戦略を追求しているという。
1)戦争を長期化させ、ロシアが経済的・政治的に崩壊するのを待つ。
2)長期戦で時間を稼ぎながら、アメリカを中心とすうNATO軍の直接介入を待つ。
もちろん、長期戦を戦う場合、唯一の戦略は静的な防衛、消耗、そして敵が前進できないように釘付けにしてから包囲し、守備を維持することである。
しかし、兵力の損耗が激しいため、たとえこれからNATO諸国による重火器の支援があっても、戦闘の継続が困難になりつつあるウクライナには、こうした長期戦は困難だと見られている。ということは、この戦略はどう見ても実現不可能だろう。