動画サービス「ニコニコ」において、一部のMastercardによる有料サービスの決済が一時停止となったことが大きな波紋を呼んでいるようだ。
報道によれば、対象となっているのはプレミアム会員料金の支払いや、ニコニコチャンネルやクリエイターサポートの新規支払登録。対象となるMastercardを利用して、プレミアム会員料金を支払っているユーザーは、その他の支払い方法へ変更するようアナウンスされているという。
ニコニコでは、今回の決済の一時停止の理由を「諸般の事情」としているが、SNS上では「Mastercardによる一連の表現規制の影響か」と噂されているようである。
過去にはPornhubやピクシブにも“検閲行為”
ニコニコに限らず、ネット上の様々な有料サービスに課金する際に、ほとんどの人が利用するであろうクレジットカード。しかし近年ではそのカード会社が、各サービスのコンテンツの中身を“検閲”し、その内容に問題があるとした時には決済停止処分を下すといった動きが増えているところ。
実際、2020年には世界的に人気のアダルト動画サイト「Pornhub」に関し、未成年の動画や合意に基づかないポルノといった、違法なコンテンツで収益を上げているといった疑惑が、ニューヨーク・タイムズなどのメディアで持ち上がったことで、Mastercardをはじめとしたクレジットカード大手がPornhubとの取引関係を見直し、決済を停止する事態に。
これを受けてPornhubは、カード会社との取引を続行させるために、未承認ユーザーによってアップロードされていた動画などのコンテンツを削除するという処置を取らざる得ないことに。これにより、当時Pornhubにアップされていたコンテンツのうち78%が消滅したとも言われ、世界中のポルノ愛好家から悲しみの声があがったのだ。
さらに2022年には、ピクシブが運営する「BOOTH」「pixivFANBOX」「pixivリクエスト」といったサービスにおいても、カード会社の意向が原因とされる、ある種の“表現規制”が行われる事態に。
具体的には「児童ポルノまたは児童虐待」「近親相姦」「獣姦」「レイプ (同意の無い性的行為)」「人または体の非合法的な切断」といった要素を含むコンテンツに関して、非公開化や取り下げを呼びかけ、違反しているコンテンツは運営側で非公開に、さらにアカウントの停止も行われるというものだったのだが、当然ユーザーからは批判が相次ぐこととなった。
露呈したテキトーすぎる価値観の押し付け
このように主にMastercardを中心としたカード会社による、事実上の“検閲行為”が大いに取沙汰される昨今なのだが、その行為そのものへの批判もさることながら、NGとされる表現の基準が、アメリカの会社らしくキリスト教の価値観に準拠したものであることを問題視する意見も多く、先のピクシブの際には「古事記や源氏物語もだめでは」といった声もあがっていたよう。
さらに今回のニコニコの件では、そんなカード会社による“物言い”が、いたって表面的かつテキトーなものであることが露呈する格好となったようだ。
というのも、ニコニコとMastercardの間では『汚い仔猫を見つけたので虐待することにした(1匹目)』というタイトルの動画を巡り、非公開にするか否かで揉めていたという話が取沙汰されていたようなのだが、この動画はタイトルとは裏腹に、実際は拾ってきた猫を甲斐甲斐しく世話するといった内容。
ネット掲示板の旧2ちゃんねるにおいて、かなり以前に話題となったコピペが元となっているのだが、Mastercard側はそういった内容であることをまったく考慮せず、タイトルの“虐待”というワードに対し過敏に反応し、非公開を迫ったようなのだ。
そういった経緯もあって、ニコニコも業を煮やした末に、今回Mastercardを“切った”というのが事の真相のよう。
そもそも日本におけるクレジットカードのブランド別のシェアを見てみると、その約半分がVisaを占め、さらに日本発のJCBが3割弱を確保しているのに対し、Mastercardはシェア2割に届かない3番手というポジションで、同ブランドとの決済を打ち切ったとしても、影響は比較的軽微とみたのかもしれない。
SNS上でも、今回のニコニコの対応に賛同する反応がほとんどといったところで、逆にMastercardに対しては、欧米的な価値観を一方的に押し付けたいのなら、グローバル展開など止めてしまえといった声も上がるなど、大逆風といった情勢のようで、日本におけるさらなるシェア低下もありえそうといった情勢のようだ。
Next: 「根底の文化や価値観が違う国に決済を握られるのってリスク大きいな」