高学歴化が少子高齢化を補う
しかし、中国の出走率は1.1と日本よりも低い。今後は、日本と同じように労働力の減少に伴う国内消費の縮小に見舞われ、やはり日本と同じようなデフレに陥るのは避けられないとも言われている。だとすると、いくら最先端テクノロジーが伸びていても、やはり中国経済は低迷する可能性が高いことになる。
ところが中国では、日本とは状況が異なるようだ。中国では、高学歴化がすごいスピードで加速している。2023年の大学卒業生数は1,160万人に激増した。中国の平均卒業年齢は23.7才だ。1,160万人の大卒者という数字は、この世代の実に63%が大学を卒業したことを示している。そしてこの間、労働人口に占める大卒者の割合は一桁台前半から25%にまで増加した。
ついこの間まで中国は、「農民工」のような出稼ぎ労働者の安い労働力が利用できる世界の工場として発展した。日本や欧米の製造業は、安い労働力を求めて中国に生産拠点を建設した。
しかしいま、安い労働力で世界の工場となるというモデルは終焉している。中国が最先端テクノロジーのほとんどの分野で世界をリードするに従い、この分野の労働力の需要を満たす必要から、中国の低賃金のブルーカラーの労働力は、大卒のホワイトカラー労働力へと移行している。2050年までに、中国の労働人口の大卒率は70%を超えると予測されている。
そして注目すべきは、中国の大卒者の40%以上が「STEM」と呼ばれる科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学専攻であることだ。これは米国の18%、ドイツの35%、OECDの26%と比べてもダントツに高い。「STEM」専攻の高学歴ホワイトカラーの分厚い層は、最先端技術の産業分野を発展させるためには不可欠な存在である。中国では、まさに最先端分野の発展に伴い、これに必要な労働力の層が準備されているのだ。
ブルーカラーの労働力と比べると、高学歴のホワイトカラーの賃金は比較にならないほど高い。消費もはるかに旺盛であろう。すると、高度なテクノロジーを必要とする最先端産業が中国の経済をけん引するようになるにつれ、少子高齢化による労働力人口の減少の余波を高学歴のホワイトカラーの旺盛な消費が補う可能性が出てくる。最近の中国関連の記事では、そのように予測する専門家も多い。ということでは、中長期的に見ると中国では、日本が過去30年経験しているデフレは起りにくいことになる。
構造的な転換期にある中国経済
しかしそれでも、GDPの40%も占める不動産分野のバブル崩壊の影響はあまりに大きい。「融資平台」への融資返済を保証している省政府が財政破綻すると、不良債権を抱えた銀行による「貸し渋り」や「貸しはがし」の横行から、実体経済には深刻な余波が出てくるだろう。いま政府は金融緩和、財政出動、不動産関連の規制緩和など中国政府は経済対策を強化している。
さらに政府は、不動産を含む民間企業が社債を発行して資金を自ら調達し、経営の悪化の乗り越えを図る方法を支援している。不動産バブル崩壊の余波は、これらの施策によってある程度緩和される可能性はある。しかし、それでも不動産バブルの破綻の悪影響は大きいに違いない。
だがこれが、日本のような長期の低迷に陥るきっかけになるのかと言えば、まったくそうではないように思う。
Next: 若者の失業、銀行の経営悪化は「一時的」との見方も







