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中国にも「失われた30年」は来るのか?“日本化”を示す3つの兆候も、日本ほど没落しない可能性が高い理由=高島康司

日本の長期低迷の原因「日米半導体戦争」

しかし、日本との類似はここまでである。日本はバブル崩壊後、実に30年にわたり長期に低迷したが、その原因は不良債権処理の困難さと銀行経営の厳しさだけではない。不良債権の処理には確かに時間がかかったものの、1993年から94年頃には日本の経済はバブルの崩壊から復活し、再度成長しつつあった。

ということでは、30年にわたる長期の低迷の原因は、不良債権の存在だけではなかった。日本は90年代初頭に改めて長期停滞のサイクルに入った。

この長期低迷の原因となったのは、「日米半導体戦争」と呼ばれた、半導体を中心とした最先端技術とその製品を巡るアメリカとの衝突である。1980年代当時、日本の半導体の世界シェア率は第1位であり、世界のITを実質的にリードする位置にあった。これを脅威と見たアメリカは、汎用OSの「TRON」やスーパーコンピュータ、そして人工衛星などと並んで、日本製半導体のアメリカ市場からの本格的な締め出しに乗り出した。日本製ハイテク製品の規制である。

この結果、バブル崩壊後の1991年には、「第二次日米半導体協定」が締結された。すでに1986年にこの協定はあったが、91年に更新されたものは一層厳しいものだった。日本は、日本の半導体市場における外国製(主にアメリカ製)のシェアを20%以上にすることを要求され、また日本の半導体メーカーによるダンピングの防止を口実に、半導体の価格の引き上げを要求された。こうした処置の影響は非常に大きかった。日本の半導体は国際競争力を失い、アメリカにシェアを奪われる結果になった。

日本の半導体メーカーは家電の大手でもあった。そこで多くのメーカーは、利益が見込めなくなった最先端の半導体から次第に撤退し、ローエンドの家電用半導体の製造に特化した。最先端半導体の開発投資も控えるようになった。

また、当時は労働力が安かった中国に生産拠点を移し、日本では大規模なリストラを行った。家電メーカーは日本の製造業の機軸である。その国内のサプライチェーンは大きく、日本経済全体への影響は非常に大きい。バブルの崩壊後、低迷していた日本経済にとって、家電メーカーの地盤沈下の影響はあまりに大きいかった。これは、日本経済の長期低迷の重要な要因になった。

中国の技術革新は力強い

では、中国ではどうなるのだろうか?バブル崩壊後の日本と同じように、最先端技術の開発と投資が低迷するような事態に陥っているのだろうか?

周知のように中国は、トランプ政権以来、アメリカの厳しい制裁下にある。最先端の半導体製造装置の中国への輸出は、完全に禁止されている。アメリカは中国の技術革新のスピードをスローダウンさせるため、あらゆる圧力をかけている。では、1991年の日本と同じような状況にあるのだろうか?

いや、中国の状況は90年代の日本とはまったく異なっている。最近も「ファーウェイ」は7ナノというサイズの先端半導体を搭載したスマホを発売した。また「アリババ」は5ナノの半導体の製造を発表している。アメリカの有力なシンクタンク、「戦略国際問題研究所(CSIS)」は、「アメリカは中国の技術力を低下させることに失敗したのは明らかだ」とそのレポートで書いている。

半導体はその一例だが、中国の技術革新のスピードは凄まじい。「オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)」の報告書、「重要技術競争をリードするのは誰か」は衝撃の調査結果を発表した。それによると、中国は、重要な最先端技術分野の大半において圧倒的に進んでおり、世界最先端の科学技術大国となるための基盤を構築しているという。44の最先端分野のうちアメリカが首位なのは7分野だけで、それ以外の37分野では中国が首位だった。ちなみに、日本がリードしている分野はゼロである。

これに対応して、中国の研究開発投資も大きい。アメリカを抜きつつある。2020年の統計では実に日本の6倍の研究開発費だ。これを見ると、バブル崩壊後の1990年代の日本とは根本的に異なる状況だ。中国の最先端テクノロジーの驀進は止まらない。

Next: 構造的な転換期にある中国経済。少子高齢化は「高学歴化」が補う

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