“中工程”が追い風に
元村:半導体の工程には、半導体のウエハに回路を照射する工程(前工程)と、回路が照射されたものを最終的にパッケージする工程(後工程)があり、OSATは主に後工程を担っています。
前工程と後工程では求められる技術が全く違うものなので、これまでは前工程と後工程で担う企業が分かれていました。しかし、半導体を微細化して性能を上げていくことがこれ以上は難しくなってきたので、「中工程(チップレット)」というものが注目されています。半導体の回路自体を小さくするのではなく、いくつかの小さいチップを組み合わせて1つの高性能な半導体に仕上げるという技術です。中工程には前工程と後工程のどちらの技術も必要で、ここを磨けば優位性が持てるということで、TSMCやIntel、Samsungといった半導体メーカーが力を入れてきて、OSATが得意としていた領域を奪おうとしています。組み合わせるという工程の中では、「切る」「削る」という技術がものすごく重要となるので、ディスコの技術が注目されています。
栫井:平面上で小さくすることがこれ以上は難しくなって上に積み上げるようになって、それには当然それに応じた切り方、削り方があるということですね。
元村:その代表的な製品が「GPU」となりますが、GPUの駆動に欠かせないものとして「HBM」という特殊なメモリがあります。
大容量の画像データを高速で処理するのがGPUで、そのGPUの処理を実現するのがHBMです。AI半導体を横から見ると、チップが縦に積み上がっていて、そのためには一つ一つを薄く平らに削る必要があり、さらに穴をあけて上下の配線を通すことになります。
栫井:AIの流れでGPUの需要がものすごく伸びていて、結果としてディスコの需要も増えているということですね。
元村:GPUはかなり小さい回路で照射されていて、これまでの後工程ではある程度不純物が混ざっても許される環境でダイサやグラインダを使っていましたが、不純物が混ざってはいけない状況で今後一層やっていかなければならないということで、ディスコの製品は他のものと比べて2倍以上の価格でも売れているということです。
栫井:より繊細な技術が要求される中で、それができるのがディスコということですね。
ライバルはいない?
栫井:これだけ高性能のダイサやグラインダを作れる会社はディスコ以外にあるんですか?
元村:一応ライバルとしては東京精密<7729>という会社がありますが、AI半導体のような先端品で使われるダイサやグラインダは東京精密では手掛けられていないということです。
栫井:ということは、先端品の分野ではディスコがシェア100%と見ていいということですね。
元村:それに近い状態だと思います。装置の売上が伸びれば、精密加工ツール(=消耗品)の売上も同様に伸びてくるという好循環も生まれています。
元村:今後、AI半導体の需要が続くのであれば、ディスコのダイサやグラインダの需要も高まっていくと思われます。なおかつメーカーやファウンドリが「中工程」の技術の覇権を取ろうとすれば、そのあたりがメインの顧客となる可能性もあり、長期的な見通しはかなり明るいと思います。
栫井:OSATの方が強くなろうと、TSMCやIntelが強くなろうと、結局ダイシングやグラインドの技術は必要になってくるから、いずれにしてもディスコの技術は重宝され続けるということですね。
元村:そうですね、やはり「切る」「削る」「磨く」の技術でディスコの右に出るものはいないので、ディスコを頼る状況は続くと思います。
Next: 投資のリスクは?長期的に需要はあるが……